正六面体群

ここまでに 運動群有限回転群 のページで,対称性のある図形を回転させるような操作が群をなすことを勉強しました.このような図形の移動の群は,対称性のある幾何学や結晶学において,群論が威力を発揮する一例として,応用上重要なものです.

そこで,正多面体を自分自身に写す(見た目を変えない)回転のなす群について,もう少し詳しく勉強しておきます.正多面体には,正四面体,正六面体,正八面体,正十二面体,正二十面体の五種類がありますが,手始めにこの稿では,正六面体を考えます.

[*]正六面体というのは,要するに立方体のことです.しかし,他の正多面体の呼称と統一性するため,以後,正六面体と呼ぶことにします.

正六面体を自分自身に重ね合わせる変換

正六面体の見掛けを変えないような回転(つまり,角は角に,辺は辺に移動される回転)には,どのような種類があるでしょうか.もし手元に四角い箱やルービックキューブでもあれば,いろいろ回して試してみてください.

文で書いても絵で示しても,どうしても少し煩雑になりますが,これには次のように,恒等変換を含めて4種類の回し方があることが分かります.できれば,自分の手で箱を回して納得してみてください.

  1. 何にもしない.(恒等変換)
  2. 正六面体の中心を通り,各面に垂直な軸のまわりに 90 度, 180 度,もしくは 270 度回す回転方法(図左上)
  3. 正六面体の中心を通る対角線のまわりに, 120 度,もしくは 240 度回す回転方法(図右上)
  4. 正六面体の中心を通り,各辺の中点を通る軸の回りに, 180 度回す回転方法(図左下)
Joh-CubicGroup1.gif

これらの回転操作を全て合わせた集合が,群になることは,既に 有限回転群 で勉強しました.これを, 正六面体群 と呼びます.しかし,この正六面体群の位数は幾つなのでしょうか?頑張って,全部数え挙げてみましょう.

まず,恒等変換が一つあります.最初の回転方法は,軸が3本,回転角が3種類ありますから,合計9通りあります.2番目の回転方法は軸が4本で,回転角が2種類の計8通り.3番目の回転方法は軸が6本で,回転角は 180 度だけなので6通りです. 1+9+8+6=24 で,全部で24種類の元が正六面体群にはあります.正六面体群の位数は24だと言うことが分かりました.ふう(汗)

対称群と対応させる

さきほど正六面体群の位数を,図を見ながら全部数えあげるましたが,けっこう大変でした.もっと複雑な立体の場合には頭が混乱してしまいそうです.実は,正六面体群は4次の対称群と同型なので,4次の対称群を考えれば,位数は 4!=24 とすぐに分かってしまうのです. (対称群の位数については 対称群 を参照.)え!!??っという感じですね.正六面体群と4次の対称群が対応するとはどういうことでしょうか.

正六面体には,対角線が四本あります.最初の状態で,それぞれの対角線に I,II,III,IV と名前をつけます.上に考えたように,正六面体が正六面体に移される変換というのは,これらの対角線を何らかの仕方で置換する変換だという見方もできるわけです.

Joh-CubicGroup2.gif

このように正六面体群を,4次の対称群(4つの物の置換)だと考えれば,すぐに |S_{4}|=4!=24 が分かるという訳です.これは,物体の回転と,文字列の置換という,一見まったく異なる操作の集合が,群として同じであるために問題を簡単化できてしまった一例です.

[†]あんなに複雑な回転変換を,4本の対角線と対応させてしまった手法は鮮やかでした.しかし,対角線の置換を考える方法だけが,正六面体群と対称群を対応させる唯一の方法なのでしょうか?例えば,辺の置換や,頂点の置換を考えても,正六面体群と対応させることが出来そうです.もしくは,各辺の中点を結ぶ6本の直線の置換関係に注目する方法だってありそうです.この問題は,軌道を勉強したあとで,また考えることにします.