ここまでの記事で,剛体の無限小回転を勉強しました.この記事では,ここまでのまとめとして,回転している剛体上の座標系で,ベクトルの時間微分がどうなるかを考えます.今までの内容が分かっていれば,新しいことは何もありません.
剛体の 重心 を とします.剛体の表面の一点 を原点とする剛体座標系を考えましょう.剛体は, を中心に角速度 で回転しているとします.ここでは,簡単のため,剛体の重心は静止しているとします.
図中のベクトル の変化を剛体座標系から観測する場合,静止座標系から観測するのとは違った見え方がするはずです.
[*] | 極端な話, として図の ベクトルを取った場合,このベクトルを点 から見れば(ベクトルと観測点が一緒に回ってるわけですから)常に一定に見えるはずですが, から見れば,クルクルと回っているベクトルに見えるはずです.剛体座標系では止まって見えるものが,静止座標系からはクルクル回って見えるわけです.これはすなわち, 静止座標系での見え方には,剛体座標系からの見え方に,剛体座標系自体の回転の効果を加味しなければならないからです. |
この見え方の違いということを,式としては次のように書くことにします.
添字は, が静止座標系, が剛体座標系, が回転の効果を意味するとします.つまりこの式は『静止座標系で観測した変化分は,剛体座標系で観測した変化分に,剛体座標系自身の回転による変化を足したものだよ』ということを表しています.
両辺を で割って, 時間微分の形にします.
こうすると, 無限小回転2 もしくは ベクトルの回転 で求めた結果を使って回転による変化の項 を次のように変形できます.
静止座標系で観測したベクトル の時間変化と,剛体座標系で観測したベクトル の変化が関係づけられました.
[†] | ここでは剛体の重心は静止しているとしましたが,剛体の重心が静止座標系に対して運動している場合,当然その運動を考慮した座標変換が必要です.この場合, の部分にその運動が反映されることになります.剛体はその重心だけの運動を考えるときは質点と同じように扱うことができましたので,その座標変換はガリレイ変換に準じたものになります.剛体の運動は重心の並進運動と,重心回りの回転運動に分解できるということでしたので,この二つを全く別々に考えておいて良いわけで,重心が静止していると仮定しておいても,議論が狭まるわけではありません. |
[‡] | 剛体の角速度 の向きは時々刻々変わるかも知れません.そのため, を瞬間角速度と呼ぶこともあります.(3)式は両座標系の関係式として, がどのように変わろうとも瞬間瞬間に成り立つものです. |
(3)式では両辺でベクトル が共通ですので,これを省いて,形式的に微分演算子の座標変換として次の形にしておきましょう.とてもとても大事なので,黄色く囲っておきます!
もちろん,両辺に右側から何かベクトルを掛けなければ演算子だけでは物理的に意味がありませんが,形式的にこのように覚えておきましょう.演算子に右から作用させるベクトルは,位置ベクトルだけでなく,速度,運動量,角運動量など,物理に出てくるベクトルならなんでも良いのです.剛体の計算で,この関係式はよく出てくるので,できれば暗記してしまうことをお薦めします(>_<).
次は,具体的にこの公式を使って, 見かけの力 を導きましょう.