ドップラー効果1

ドップラー効果をご存知ですか?救急車が自分に近づく時と自分から遠ざかる時で,サイレンの 聞こえ方が違うと感じた経験はないでしょうか.また,踏み切りの「カンカンカン」という音を 電車の中から聞くと,踏み切りに近づく時と遠ざかる時で聞こえ方が違うと感じた経験はないでしょうか. これらが,1800年代半ばにオーストリアの物理学者ドップラーが発見した, 「ドップラー効果」と呼ばれる現象です.

波の大事な性質 について学習が済んでいない場合は,まずはそちらから読んでみてください.

朝礼

音というものがどのように伝わっていくのかを,簡単に確認しておきましょう. 学校などでよく行われる朝礼では,校長先生(話をする人)と,生徒たち(話を聞く人)がいます.

tomo-dopplereffect1-fig1.png

たいていの朝礼では,話をする人も聞く人も,ずっとほぼ同じ場所にいます. 話をする人が出した音が同心円状(同心球状)に伝わっていくことは,直感的にも納得できると思います.

tomo-dopplereffect1-fig2.png

図に示した同心円で,実線は波の山を,破線は波の谷を表すと思ってください [*] . つまり,図中赤い矢印で示した,実線から実線までの距離や破線から破線までの距離が, 波長( \lambda[{\rm m}] )を表すことになります.

例えば,話をする人が 440[{\rm Hz}] の音を出したとすると,それが同心円状に伝わり, 話を聞く人の耳に 440[{\rm Hz}] のまま届きます.「 440[{\rm Hz}] のまま」というのは, ここでは当然のことですが,以下ではこれが変化して聞こえる場合を扱いますので,あえて書いておきました.

これ以降,図中の破線(波の谷を表す線)は省略します.また, 音を出すもののことを「音源」,音を聞くもの(人)のことを「観測者」と呼びます. そして,音源が出す音の振動数を f[{\rm Hz}] ,観測者が観測する音の振動数を f'[{\rm Hz}] , 音の伝わる速さ(音速)を V[{\rm m/s}] ,観測者が動く速さを v[{\rm m/s}] とします.

[*]音波は縦波なので,本来は山と谷(波の進行方向と媒質の動きが垂直)ではなく疎と密(波の進行方向と媒質の動きが平行)です.ここでは,視覚的な分かりやすさを優先して,音波である 縦波を横波のように表示 した時の,山を実線で,谷を破線で表しました.

踏み切りの音(観測者が動いて音源が静止している場合)

朝礼では,音は話を聞く人の耳にそのままの振動数で届きますが, 電車に乗っている観測者が踏み切りの音を聞く場合はどうでしょうか.

踏み切りに近づく時

簡単のため,音源は線路上にあるものとします(普通は線路脇にあると思いますが).

tomo-dopplereffect1-fig3.png

音源は止まっていますから,音は朝礼の時と同じように同心円状に伝わっていきます. ところが,観測者は電車の中にいますから,動いているわけです. ここが朝礼の場合と違うところですね. 観測者は同心円状に伝わる音に向かって突っ込んでいきます. すると,観測者の耳には,止まっている時よりも「波の山」がやってくる頻度が多くなります (観測者が観測する音の振動数は,音源が出す音の振動数より大きくなることが分かります). つまり,見かけ上,音速が V よりも大きくなっているのです. 速さ V で近づいてくるものに対し,速さ v で突っ込んでいくわけですから, 観測者にとって音は速さ V+v で伝わってくるように見えるはずです.

tomo-dopplereffect1-fig4.png

波の大事な性質 で学んだ「波の重要な関係式」を用いれば,音源については,

V=f\lambda

観測者については,

V+v=f'\lambda

と書けます.以上2式より,

f'=\frac{V+v}{V}f

と求まります.この式から, f'>f となっていることが分かりますね.音は高くなって聞こえるわけです.

踏み切りから遠ざかる時

踏切に近づく時と同様に,音源は線路上にあるものとします.

tomo-dopplereffect1-fig5.png

今度は,観測者が音源から遠ざかっていきます. すると逆に,観測者の耳には,止まっている時よりも「波の山」がやってくる頻度が少なくなります. (観測者が観測する音の振動数は,音源が出す音の振動数より小さくなることが分かります). つまり,見かけ上,音速が V よりも小さくなっているわけです. 速さ V で近づいてくるものに対し,速さ v で遠ざかる方向に動いているわけですから, 観測者にとって音は速さ V-v で伝わってくるように見えるはずです.

tomo-dopplereffect1-fig6.png

波の重要な関係式を用いると,音源については,

V=f\lambda

観測者については,

V-v=f'\lambda

と書くことができて,以上2式より,

f'=\frac{V-v}{V}f

と求まります.今度は, f'<f となっています.音は低くなって聞こえるんですね.

コラム

昔の人は,この音のドップラー効果を確かめるため,鼓笛隊を使った実験を行ったそうです. 鼓笛隊を駅に置いて演奏させ,観測者が電車に乗って音を観測する場合(観測者が動いて音源が静止している場合)と, 鼓笛隊を走る電車に乗せて演奏させ,観測者が駅で音を観測する場合(音源が動いて観測者が静止している場合)について, 実際に検証したのです.

観測者が動いて音源が静止する場合については,現在でも(運が良ければ)検証ができます. 例えば,「各駅停車は停まるけど,快速は停まらない駅を,快速に乗って通過することがある」 という人はチャンスがあります.今は発車する際の合図が,いわゆるベル音ではなくメロディーを 使っているところがありますよね.別の電車が駅を出る間際(発車合図のメロディーが鳴っている時)に, その駅を快速電車で通過すると,ドップラー効果でそのメロディーがおかしくなって聞こえるのです. もしそういう状況に出くわしたら,耳を澄まして聞いてみてください.