二つのベクトルの掛け算には 内積 と 外積
という二種類がありました.内積はスカラーに,外積はベクトルになりますから,これらを スカラー積 , ベクトル積 と呼ぶこともあります.
この記事ではさらに, つのベクトルの積を考えます.ベクトルを
つ掛けると言っても,内積と外積の組み合わせに色々ありそうです.
式 で定義される三重積は
の部分がベクトルで,それと
の内積を取るのですから,結果はスカラーになります.これを スカラー三重積 と呼びます.
式 で定義される三重積は
部分のベクトルと,ベクトル
の更に外積を取りますので,結果もベクトルになります.これを ベクトル三重積 と呼びます.
式 は,
の部分がスカラーですから,ベクトル
を単にスカラー倍しているだけで面白くもなんともない計算です.もちろん
や
は定義不能です.
結局,なんだか面白そうなのは,スカラー三重積とベクトル三重積の二つです.
まず,ベクトル は一次独立だとします.外積の定義より,
は,長さがベクトル
の張る平行四辺形の面積に等しく,向きは平行四辺形の法線方向を向いたベクトルです.(次図参照.外積の向きは右手系に取っています.)
このベクトルと の内積を取ります.
ここに出てくる は,
と
がなす角度です.ところで,次図のように
の張る平行六面体を考えると,
は底面積,
は高さになっていますから,スカラー三重積は
の張る 平行六面体の体積になる ことが分かります.
図形的意味からも明らかですが,スカラー三重積は積の順番によりません.
また,ベクトル が一次従属の場合,平行六面体はつぶれてしまいますから,その体積は零で,スカラー三重積は
になります.もちろん,
の中に同じベクトルがある場合もスカラー三重積は
になります.
スカラー三重積を,次のように行列式で表現することもできます.
公式 は,実際に成分を代入すれば簡単に証明できますので,ここでは証明は省略しますが,ぜひ一度自分で確認してみて下さい.
もう一つ重要なことがあります.それは,スカラー三重積は平行六面体の 向きつき体積 を表わしているという点です. ならば,
は右手系,
ならば,
は左手系の基底になります.このことは,先ほどの図に示した
が,左手系の場合には
になるため,
になると考えれば納得いくと思います.( 軸性ベクトルと極性ベクトル を参照してください.)
三つのベクトルさえあれば,順番は関係ないということでしたので,ベクトル三重積を括弧を使って次のように書くこともあります.
この括弧を グラスマン記号 と呼びます.スカラー三重積をしょっちゅう使う人には便利な表記法でしょう.
[*] | グラスマン( ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
ベクトル三重積 は次のように表わされます.
この公式の証明は,実際に成分を代入すれば示せるのでここでは省略します.外積の定義より, は
に直交するはずです.また,
は
と
の張る平面に垂直な向きですが,
は
とも垂直な向きなので,結局
と
の張る平面に乗るベクトルとなります.
ベクトル三重積は,スカラー三重積とは異なり,ベクトルを入れ替えたら結果が変わってきます.式 の
を巡回的に入れ替えることで,他の組み合わせの場合の公式を簡単に得ることができます.
式 を足し合わせると次式を得ます.これは三つのベクトルについて,いつでも成り立つ恒等式です.
これを ヤコビの恒等式 と呼ぶことがあります.とても美しい結果ですね.
[†] | 一般に,二種類の元 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |