正孔

ここでは,電子と同じく半導体中の電気伝導の重要な担い手である正孔についてお話します.

正孔って何?どうしてできるの?

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上の図は,簡単化した半導体のバンド構造です(この構造についての詳しい説明は 導体・絶縁体・半導体 をご覧ください).電子が空の 上のエネルギー帯に移ると,電子が詰まっていた下のエネルギー帯に,空の部分ができます.これが正孔(hole:ホール)です.ここで, 空っぽ,もしくは電子がスカスカの上のエネルギー帯のことを「導電帯(または伝導帯)」,電子が詰まっている下のエネルギー帯のことを「価電子帯」と いいます.

正孔は,電気的に中性であったところから電子が出ていった後の抜け殻なので,下の図のように正の電荷をもっていると考えることができ ます.

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正孔は正の電荷をもっていると考えて良いの?

ここで,ただの電子の抜け殻であった穴を正の電荷と考えて良い理由をもう少し詳しくお話しましょう.“そう考えて良い”というよりは, “そう考えた方が便利”なのです.

先ほど,価電子帯とは電子が詰まっているエネルギー対のことだ,と言いました.そのため価電子帯から電子が導電帯に出ていった後も, 価電子帯には電子がうじゃうじゃ存在しているのです.

この状態で電界をかけてみましょう.下の図を見てください.

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正孔ができる前は電子がぎゅうぎゅうに詰まっていたため,電界をかけても電子は自由に動き回ることができませんでした.ところが 正孔ができた後は,その穴に電子が次々に移動していきます.“電子が”移動しているのです.でも,これってまるで“正孔が”移動して いるように見えませんか?電子は電界がかかっている向きとは反対に移動します.そのため正孔はあたかも電界がかかっている向きと同じ 向きに移動しているように見えるのです.

電界がかかる向きと同じ向きに移動する…それって正の電荷をもつ粒子の運動ですよね?だから正孔は正の電荷をもっていると考えても かまわない,ということになるのです.

正孔はどうして重要なの?

冒頭で,正孔は半導体中で重要である,と言いました.なぜなのでしょうか. 導体・絶縁体・半導体 で,導電帯に移った電子は電界 [*] が かかると,その電界の向きとは反対の方向に移動し,電流が流れることになる,という説明がありました.もうおわかりでしょう.そう, 価電子帯に発生した正孔もこれと同じ働きをするのです.

正の電荷は,電界の向きと同じ向きに移動します.正孔は正の電荷をもっていると考えることができるので,価電子帯に発生した正孔は 電界がかかると,その電界の向きと同じ方向に移動し,電流が流れることになるのです.正孔もまた電子と同じくらい半導体中で大切な 働きをするのですね.

[*]ちなみに,理論物理を勉強している人は「電場」,工学系の物理を勉強している人は「電界」と言い表し,お互いにこれらの名前をゆずりません(^^;)しかしながらまったく同じものを指しています.この記事は工学系の話である半導体関連の記事なので,「電界」の方を用いました.

最後に

半導体中の電気伝導の担い手である電子と正孔のことをまとめて“キャリア”と呼びます.このキャリアが半導体の電気的性質を決定する ため,私達人間がそれらを制御することが重要になってくるのです.