ベクトル解析奮闘記1

はじめに

講義などで初めてベクトル解析を習った時,“難しい”,“わけわからん”と思った経験がありませんか?実は私もその一人です.いまだに詳しくはわかりませんが,これまで私が悩んだ過程をここにご紹介して,もしご参考になればと思います.

初講義前日

ベクトル解析って,ベクトルを使って問題解いたりするのでしょうか?ベクトルなら高校の数学で習ったし,要するに大きさと,方向(向き)を持つ概念ですよね?矢印作図して足し算したり,引き算したり,大きさを実数倍したり,特に始点を原点

(0,0)

にすれば終点の座標 (x,y) でベクトルを表せちゃいます.作図しなくても,そういう風に成分表示すれば足し算,引き算も簡単です.内積だってわかります.成分で書くと (a,b)\cdot(c,d)=ac+bd とすればいいのです.簡単,なはずです. たいした事ないですよ,きっと.実は明日ベクトル解析の初講義なんですが,予習なんてしないで寝ちゃおっと・・・.

翌日初講義終了.ところが!

わー,なんなんだこれは! わからん,全くわからん!だいたい三角関数の {\rm sin,cos} じゃあるまいし,なんで ベクトルやるのに3,4文字英単語( {\rm grad} (グラジエント), {\rm div} (ダイバージェンス), {\rm rot} (ローテーション))や,おまけに偏微分記号まで出てくるんでしょう!もちろん {\rm sin,cos} は私でもわかります,直角三角形の辺の比ですよね?(絵を書いてみればすぐわかります.)偏微分だって,他の変数(例えば x で微分する場合,それ以外の y,z など)を定数と見て,微分する事でしょ?それも知ってるんだがなあ.いずれにせよこれは家に帰ってよく復習しないと.電磁気学はこれ使うって言うし・・・.

自宅で復習(gradの巻)

ここであきらめたり,あせってもしょうがないのでまずゆっくり順番に考えてみました. " {\rm grad} "はえーっと" {\rm gradient} (傾き)"の略ですか・・・.たしか先生が黒板に書いた式は

{\rm grad}f=(\frac{\partial f}{\partial x}, \frac{\partial f}{\partial y},\frac{\partial f}{\partial z})

だったなー. う〜ん, {\rm grad} ももちろん, \partial がいかにも難しそう・・・.でも冷静に見ると,これは値が三つ組みになってるから,スカラー(ベクトルのように方向を持たないただの数値)関数 f から3次元のベクトルを一つ作ったようですね(どんなベクトルかはまだわかりませんが).とりあえず,わかりやすくするために z を省いて2次元で考えると

{\rm grad} f=(\frac{\partial f}{\partial x}, \frac{\partial f}{\partial y})

あれっ,こうやってみると, x の変化に対する f の変化率と, y の変化に対する f の変化率を x,y 成分に持つベクトルのようですね.例えば f を具体的に考えると

f=3x+4y

なら

\frac{\partial f}{\partial x}=3

 ( 4y は定数扱いで 0 になる)

\frac{\partial f}{\partial y}=4

 ( 3x は定数扱いで 0 になる)だから

{\rm grad}f=(3,4)

となるわけですか・・・. 一体このベクトルは何者でしょうか? 今の場合,変数 (x,y) の変化に対する f の変化率を表記する時に, x 方向に対する変化率は 3y 方向に対する変化率は 4 ,ということなのですが,どちらか 0 なら,片方だけ(数値1個)で表されるのでしょうけど,実際はそうとは限らないし, x 方向と y 方向じゃ違う方向の大きさですから, 3+4=7 と足し算するわけにもいきません.もし (1,100) なら,ほとんど y 方向と考えていいけど, x 方向も完全に無視はできないし,それぞれの方向の大きさに応じた合成方向・・・というわけですか.この数値の場合と,一般的な場合をグラフに書くと以下のようになりますね.

yakan-grad-fig1.png
yakan-grad-fig2.png

なるほど,それで x 方向と y 方向の変化率をそれぞれ x 方向と y 方向の成分としたベクトル

{\rm grad} f=(\frac{\partial f}{\partial x}, \frac{\partial f}{\partial y})

を考えれば,まとめて表記できるわけですね. x 方向の変化率を

(\frac{\partial f}{\partial x},0)

y 方向の変化率を

(0,\frac{\partial f}{\partial y})

と,それぞれ自体ベクトルと考えると,

(\frac{\partial f}{\partial x},0)+(0,\frac{\partial f}{\partial y} )=(\frac{\partial f}{\partial x},\frac{\partial f}{\partial y})={\rm grad} f

ですから, {\rm grad} fx の変化率と y の変化率を方向も含めて合成した,一番変化率の高い(坂で言えば勾配のきつい)方向を向いてるベクトルなんですね.だから {\rm grad} (勾配)というのか・・・.ふー,やっとわかった気がします.( z を増やして3次元で考えても同じ事ですね)

勾配がきつい方向ということは,矢印を逆にすれば,ボールが転がり落ちてくる方向になります(下図).

yakan-grad-fig3.png