平方完成の図形的イメージ

2次方程式を解く 際,「平方完成」という操作を行います. はじめて授業で習ったとき,どうも変形の本質というか, イメージが掴めなかった方も多いのではないでしょうか. 平方完成の“図形的イメージ”を捉えることを目標に,この記事を書きました.

平方完成とは

2次方程式を解くときに,「なんとかの二乗=定数」という形に変形することを,平方完成と呼びます. たとえば

x^2+bx=c

という2次方程式を平方完成すると,

\left(x+\frac{b}{2}\right)^2=c+\left(\frac{b}{2}\right)^2

になります.この式変形の意味を,何とか図形的にイメージすることはできないでしょうか.

図形的意味

一般式ではイメージし辛いので,つぎのように具体的な2次方程式を考えます.

x^2 + 11x = 33 \tag{1}

この式の意味は「ある数を二乗したものと,ある数に11を掛けたものを足すと,33である」ということです. そして,方程式の解を求めるとは,「ある数」が具体的にいくらなのかを決めることです. 式 (1) をなんとか図形的に表したいのですけど,どうしよう. そうだ,“2次”なのだから,面積に例えられないでしょうか. 四角形の面積は,一辺掛ける一辺,という2次の問題です. 特に正方形ならば,辺の長さの二乗,という問題になります. 2次方程式を,正方形の面積を求める問題 [*] に置き換えてみましょう.

[*]この図形的な方法は,アラビアのアル・クワリズミという数学者が考えたそうです. ちなみに,“アル・クワリズミ”は“アルゴリズム”の語源だとか.

正方形とその面積

まずは式 (1) の右辺を,正方形の面積として表現することにします. 正方形の絵を描いておきます.

sakima-kainokoushiki-fig1.png

残るは式 (1) の左辺を,正方形の辺の長さで表せれば, 2次方程式を図形的に表したことになります.しかし式 (1) の左辺は

x^2 + 11x

なので,正方形の辺の長さにする,と言ってもなんだか良くわかりません. しかしこれが x^2 だったらどうでしょう.この場合,辺の長さは x で良いですよね. 一辺の長さが x の正方形の面積は, x^2 ですからね.

x^2 + 11x を「何とかの二乗」に近づけるため,つぎの式変形を行います.

x^2 + 11x  = \left(x + \frac{11}{2}\right)^2 - \left(\frac{11}{2}\right)^2 \tag{2}

ひとまず,「何とかの二乗」に近づきました. マイナスが付いた項が出てくるのは,両辺の値を等しくするためです. 式 (2) の右辺を式 (1) の左辺に代入してみましょう.

\left(x + \frac{11}{2}\right)^2 - \left(\frac{11}{2}\right)^2 = 33 \tag{3}

となります.

仮にマイナスの項を無視して考える

ここで一時的に,式 (3) においてマイナスの項を「なかったこと」にして考えてみると

\left(x + \frac{11}{2}\right)^2 = 33

であり,この式は,図形的につぎの図で表せます. 一辺の長さが x + \frac{11}{2} の正方形ですね.

sakima-kainokoushiki-fig2.png

色分けしているのにはちゃんと意味があります. 図にもう少し情報を書き込んでみます.

sakima-kainokoushiki-fig3.png

一辺の長さが x + \frac{11}{2} であるという情報を元に, このように,全体を4つの四角形に分けることができます.

  • 面積 x^2 の正方形が1つ
  • 面積 \frac{11}{2}x の長方形が2つ,
  • 面積 \left(\frac{11}{2}\right)^2 の正方形が1つ

です.図の右下の,面積 \left(\frac{11}{2}\right)^2 の正方形に注目してください.

マイナスの項もちゃんと考える

マイナスの項をちゃんと考えるには,両辺に「マイナスの項と同じもの」 を足して打ち消す,という方針を取ります.つまり

\left(x + \frac{11}{2}\right)^2 - \left(\frac{11}{2}\right)^2 = 33

\left(x + \frac{11}{2}\right)^2 = 33 + \left(\frac{11}{2}\right)^2 \tag{4}

とすれば良いのですね.いまの場合,まるっきり無視したのではなく, 左辺から引いた分を右辺に足しているので,方程式の整合性は保たれています. しかし今度は,全体の面積に相当する右辺の値が増えてしまいました. これは,つぎの図のように考えます.

sakima-kainokoushiki-fig5.png

左側の「一部が欠けた正方形」の面積こそが,式 (1) の右辺に相当し, 右側の「ちゃんとした正方形」が,変形した式 (4) の右辺に相当している,ということです.

まとめ

平方完成とは,このように正方形を完成させて,問題解決を簡単にすることだったのです.

x^2 + 11x = 33

のように x^2 の項と x の項が別々だと難しいですが,

\left(x + \frac{11}{2}\right)^2 = 33 + \left(\frac{11}{2}\right)^2

と平方完成すると x は一箇所にまとまるので,問題を考えやすくなります [†] . 変形の必然性,意味が少しでも納得できれば記憶も定着しやすいですし, なるほど! と思えれば勉強が楽しいものになりますね.

[†]正方形の面積,というイメージは思い浮かべやすいですが, じゃあ面積が負の場合はどうなるんだろう,という疑問にもつながります. そこは割り切っておきましょう.