ガロア群の定義はそれほど難しくありませんでしたが,ガロア群が具体的にどのような群であるか,すなわち,その元である自己同型写像がどのようなものであるかが,まだあまりピンと来ていないと思います.
実は,ガロア群の元は体によって簡単に決まる場合もあれば,なかなか求めるのが難しいような場合もあり,一般にはなかなか簡単に決まりません.特に,拡大次数が大きい場合には大変です.ガロア群を決定するための万能の方法はありませんが,幾つかの例と定理を見ながら,ガロア群に少しずつ慣れていきましょう.
まず,体の自己同型写像の定義を復習しましょう.
有理数体 を に写す自己同型写像には,恒等写像しかないことが分かります.これは背理法ですぐに示せますが,もしも,ある有理数が違う有理数に写される場合があれば,式 が成り立たない反例をすぐに示せるからです.
Important
有理数体 を に移す自己同型写像には恒等写像しかありません.
最初に, の二次拡大体の例として のガロア群 を考えます. の元が全て の形に書けるのはもう大丈夫だと思います.
まず,明らかに恒等写像 は自己同型写像で, の元です.
これは自明な元です.実は,もう一つそれほど明らかではない自己同型写像に, を に写す写像があります.
この写像 が確かに自己同型写像の定義を満たすことを確認してみましょう.式 に を代入してみます.
確かに も自己同型写像の定義 を満たすことが分かりました. ですから,この自己同型写像群は と だけで閉じた位数 の群を作れます.
また, も も の形の元の有理数部分,つまりこの例の を不変に保ちますから,ガロア群 が分かります.
[*] | のちほど,ガロア理論の応用として,定規とコンパスで作図可能な図形の問題や,代数方程式の可解性も問題を考えますが,そうした場合に二次拡大が非常に大事です. |
もう一つ, の拡大体 を考えてみましょう. の元は,全て の形で表わすことができます.
二つの の元の積を考えて,恒等写像以外の自己同型写像の可能性を考えてみましょう.計算はけっこう大変です.
じっと両辺を見ていると,まず左辺の と の符号を から に変える写像 が,右辺でも二行目と四行目(つまり と に相当)の符号だけを変えることが分かります.
よって, は式 を満たしています. が式 を満たすのは明らかですから, は の自己同型写像になっています.同様に, と の符号だけを変える写像 , と の符号だけを変える写像 も自己同型写像になります.
有理数の部分 を不変に保つ自己同型写像(つまり を固定体とする の自己同型写像)はこの四つだけですが,この四つの自己同型写像は確かに群をなします.群表は次のようになります.
I | K | L | M | |
---|---|---|---|---|
I | I | K | L | M |
K | K | I | M | L |
L | L | M | I | K |
M | M | L | K | I |
これより,ガロア群 が分かります.この群が, クラインの四元群 と同型であることを,群表を比較して確認してください.ここで行った計算はやや面倒でしたが,自己同型写像を具体的に決めるには,定義式 を満たすように地道に探すしかありません.
[†] | 具体的に自己同型写像を探すしかないと書きましたが,たいていは例題のように, の符号を入れ替える写像を考えれば良いです.複素共役を取る操作に似てますね. |
例2に出てきた の二つは, の元で の部分の符号を変えませんので, が言えます.このガロア群は,明らかに例1で見た に同型です.
これは少し考えてみればもっともなことです.ガロア群は,二つの体の間にある,拡大の関係だけで決まってくる群ですので, に を添加した体と, に を添加した体とで,ガロア群 と が同型になっていることに不思議はありません.このような関係を,よく次のような図で書く人もいます.図中,下の から上の に到るのに,添加する元と中間体を示しているわけです.
矢印の横には,ガロア群の元や位数など,追加情報を書き込みましょう.物理のかぎしっぽでは,このような図はあまり使わないと思いますが,演習問題を解く際に自分で考えるのには,きっと役に立つと思います.ここまでに 体の自己同型写像 で『ガロア拡大の拡大次数は,ガロア群の位数に等しい』という定理を導きましたが,例1と例2をもう一度振り返って,この関係を確認してみてください.
有理数体 の拡大体 を考えてみます. は, の解 を に添加して得られる体で, 上 は既約ですから, は の最小分解体になっています.
まずガロア群 を求めてみましょう. の元は一般に の形をしています.
例題1,2と同じように考えますが, を基底とする項を に変える写像は自己同型写像と言えます.同様に, を に変える写像も自己同型写像です.
[‡] | は二乗すると有理数, は四乗すると有理数になり,それぞれ 種と 種の項で巡回的なループを作っています.そこで恒等写像も含めて の項に 種, の項に 種の自己同型写像が考えられるわけです.次表に示すように, で計 種になります.例題1,2よりも複雑ですね! |
これらの写像の組合わせは次表のようになります. は適当につけた名前です.
自己同型写像 | ||
---|---|---|
ガロア群 が得られました. の位数と の拡大次数がどちらも である点を確認してください.
さて, の元で, は となりますので(確かめてください), だけで位数 の部分群が作れます.また, の固定体は,次のように実際に計算してみれば分かります. の元を として, を作用させてみましょう.
係数を見比べて, を満たすために が要請されます. はこの変換によって不動です.これによって, の固定体の元は次のような形であることが分かります.
すこし技巧的ですが,これを次のように書き換えることも出来ます.
これより, の固定体は だと分かりました.
[§] | ちなみに, は の正規部分群ではないため, は のガロア拡大ではありません. |