教科書によく出てくるものに,クラインの四元群というものがあります.クラインの四元群とは,位数4の可換群です.位数4の可換群なので, の群表(対角線に対して対称になるはず)を書けば,元同士の演算関係を網羅できるはずです.
群の構造としては,群表を書いた時点で説明を尽くしているのですが,具体的にはクラインの四元群は 各軸回りに 度回転させる回転操作の群として表現されます.
次図のように, 軸, 軸, 軸に沿って図形を 度回すような回転を,それぞれ と名づけます.(有限回転の操作は,一般に非可換です. 無限小回転1 を参照してください.しかし,回転角が 度の場合は可換になります.つまり,これは有限回転の操作の中では,かなり例外的なものです.)
例えば, の操作の後に続けて の操作を行うことは, の操作に等しくなります.
想像だけで考えていると混乱してくるので,どうか何か手に取って,実際に回して確認してみてください.同様に, に続けて を行う変換は, に等しくなります.また,同じ変換を二回続けて行うと,何もしなかったの(恒等変換 )と同じになります.
これらの回転操作 は群をなします.群表にまとめると,次のようになります.
e | p | q | r | |
---|---|---|---|---|
e | e | p | q | r |
p | p | e | r | q |
q | q | r | e | p |
r | r | q | p | e |
[*] | クラインの四元群の元 はどれも二乗すると になりますから位数は だと言えます.クラインの四元群は,巡回群ではない群としては最小のものです.クラインの四元群が存在することと,四次方程式に解の公式が存在することは,ガロア理論によって結び付けられます. |
上の表中, として,回転操作の代わりに,次のような四つの行列の積を考えても,上と同じ群表を満たします.計算して確かめてみましょう.ただし は二乗して となる, 分離複素数 と呼ばれるちょっと変わった数です.複素数ではありません.
つまり,これらの行列の集合は,群として同じ構造をしているということです.他にもクラインの四元群と同じ構造の集合(元が4つあり,同じ群表を満たすもの)を探してみましょう.
[†] | クライン( )は,群論の幾何学における重要性を大いに研究した数学者です.クラインがエルランゲン大学で行った講義をまとめた『エルランゲン目録』は特に有名で,「一つの幾何学は,一つの変換群によって不変な性質を研究する不変式論である」との主張を行いました.なんのこっちゃ,と思うかも知れませんが,これはショッキングな宣言です.噛み砕いて言えば,あるタイプの幾何学には,一つの変換群が一対一に対応するという主張なのです.具体的には,ユークリッド幾何学には運動群が,アフィン幾何学にはアフィン群が,射影幾何学には射影変換群が対応するという具合です.このようにして,色々な分野に分かれていた幾何学が,群論によって統一的に扱われる可能性が拓かれ,逆に,群論の研究から,新しいタイプの幾何学が生まれてくる可能性もが示されました.いまや幾何学の勉強に群論は欠かせません. |
クラインの四元群は4次の対称群 の元のうち, 次の四つを元とする部分群だと言うこともできます.群表を書いて確認してみましょう.(上の群表で に当たるのは,それぞれどれでしょう?)
二つの文字からなる集合 と を考えます.これらを組み合わせできる文字は全部で の4つです.これに二つの関数 を考えます. は文字に作用すると と を入れ換えてしまう関数です.すなわち のようになります.一方, は数字を入れ換えてしまう関数で のように働きます.