ある一点のまわりに図形を回転させる回転変換全体は群になりますが,このうち位数が有限(集合の元の数が有限)のものを有限回転群といいます.この稿では,群表,巡回群,生成元,指数を勉強します.
例として,図形をそれぞれ 度, 度, 度, 度, 度回転させる五つの操作を考えます.これらの操作に,それぞれ と名づけます.これらは次図のように,単位円に内接する正五角形の頂点を他の頂点に重ね合わせるような回転です.(青と赤の矢印で, と を例示しました.)
さて,集合 が群になることをまず確認しましょう.
群の公理を4つとも満たしましたので, は群です.
[*] | 上で見た例が有限群となったのは, を整数(例の場合は )で割るような角度の回転操作を考えたからです.このような角度で図形を回転させれば,いつか一周しますから,そこで回転の種類は閉じて有限群となるわけです.一方, のような角度での回転を繰り返すような操作を考えると,何回演算を組み合わせても図形はきちんと一周しませんから,無限群となってしまいます. |
[†] | 複素数の積によってガウス平面上で図形が回転することを勉強したと思います.三次方程式の解の公式に出てきた の三つの解は,ガウス平面上で,単位円に内接する正三角形の頂点を意味します.群論は最初,方程式の解の公式の研究から生まれたものですが,そのような経緯により,有限回転群は最初に研究された群の一つです.回転という操作に,対称性が現われている例です. |
[‡] | 有限回転群は可換群でもあることを確認してみてください. |
上の例で,正五角形の頂点にそれぞれ と番号をつけます.例えば図形を 度回転させる操作は,頂点の名前を一つずつ付け替えることと同じだと見なせますから,次のような巡回置換を対応させることができます.
上に例で考えた群は,次のような置換操作を元とする群 と対応させることもできるでしょう.
そこで,有限回転群と巡回群は群として同型だと言えるのです.
先ほど, を2回行うと, と同じ回転操作になり, を3回行うと, になる,など,回転操作の合成について考えました.有限群の場合,操作の種類が有限なわけですから,有限の大きさ表を使って演算を合成するとどうなるかを見ることができます.このような表を 群表 と呼びます.ようするに,総当り表ですね.
上の例の群表は次のようになります.
有限群の元の関係を調べるときに,群表はとても便利なものです.
[§] | 有限可換群の群表は,左上から右下にかけての対角線に関して,表が対称になります.非可換群の群表はそうはなりません.上の例で群表が対称になっているのは,これが可換群だからです. |
[¶] | 二つの有限群で群表が同じになれば,この二つの群の群構造は同じで,同型だと言えます.同型の詳しい定義は 準同型写像 で勉強します. |
一般に群の元 を,群で定義されている演算によって 回結合したものを 元aの冪乗 (べきじょう)と呼び, のように書きます.
上の例で と書くと,群 は の冪乗を使って,次のように書くことができるでしょう.
もしくは,この有限回転群と対応させて触れた置換操作の群 に関しても, と置けば,次のように書けることを確認してください.
ここで気が付くのは,群 も も,全ての元がたった一つの元の冪乗で表されているという点です. 巡回群 には一般にこのような性質があります.( 対称群 の稿で,『全ての巡回置換からなる群を巡回群と呼ぶ』と書きましたが,巡回群の定義として,ここで挙げた『全ての元が一つの元の冪乗で表わせるような群』を採用しても同じことです.)
巡回群の全ての元の基本となる元を,その群の 生成元 と呼びます.
巡回群では,生成元が決まると,他の元は全て,生成元の冪乗で表現できます.つまり,任意の元 は,生成元 を用いて次のように表現できるということです.
ここで, の指数 は, に対して一つだけ決まります.これを『 の に対する指数』と呼びます.ひとたび生成元が決まってしまえば,全ての元を指数だけで表現できるので便利です.