いくつかの記号の列を並べ替えるとき,並べ替える方法には何種類かあります.(記号の個数が有限ならば,可能な並べ替えの種類も有限です.)
例えば,3つの記号 を並べ替えると, という並びが可能です.もとの と併せて,全部で6種類の並び方が可能だと言うことです.
このような,『並べ替えという演算操作そのもの』を元として集合をつくると,これは群になります.これを 対称群 と呼びます.
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[†] | 対称群のことを置換群とも呼ぶこともあります.全く同じ意味だ,と言い切っている教科書もあれば,対称群の部分群のことを置換群と呼ぶ,と書いているものもあります.正確な定義を知っている方は御一報下さい. |
まずは,全ての並べ替えの操作を元とする集合が,群になることを確認しましょう.本当は,細かい部分をきちんと証明をすべきですが,ここは元の公理が満たされることを直感的に理解して,先に進むこととします.
[‡] | 一般に,並べ替え操作は非可換であることも確認してみてください. |
簡単のため, を に並べ変える操作を,次のように括弧で表現することにします.上の段の文字が,この操作によってそれぞれ下の段の文字になるよ,という意味です.行列ではないので,混乱しないように注意してください.
3つの文字列の並べ替え操作からなる対称群には,6個の元(群の元の個数を 位数 と呼ぶのでした)がありました.一般に, 個の文字列の置換操作からなる群を, n次対称群 と呼び, のように書きます.一般に, 個の文字列を並び替える仕方は, 通りありますから, 次対称群の位数は だと言えます.
例えば,3次対称群は具体的に次のように書けます.
[§] | 対称群は,高次代数方程式の解の公式を探求する過程で,方程式の解の対称性に着目したラグランジェやルッフィーニにより見出され,ガロアによって全面的に用いられるようになった,いわば群論の出発点となった群です.群論が特に数学的対象の持つ『対称性』と重要な関わりを持つことを考えれば,ガロアの洞察力には改めて敬服せざるをえません. |
また,文字列を表わすのにアルファベットではなく,数字を使うこともできます.例えば,次のような具合です.
とくに,文字列の中の二つだけを入れ替えて,他の順番は変えないような並び替えを 互換 と呼びます.例えば,次の置換は, はそのままに, と だけを入れ替える互換です.
簡単のため,このような互換を のように略記してしまうこともあります.また,互換を数字で のように書くこともありますが,数字の と間違えないように,数字の間を少し間をあけて書きます.
全部の並びを,一つずつずらすような置換を, 巡回置換 と呼びます.例えば,次の置換は4項の巡回置換です.
全ての巡回置換だけを集めると群になりますが,これを 巡回群 と呼びます.
巡回置換も,簡単のために のように略記してしまう場合があります.例えば,もし と書いてあったら一つずつずらして見ていけばよく,『 を に, を に, を に, を に置き換える置換』という意味です.
一般に巡回置換は互換の積として表わすことが可能で, 項の巡回置換は高々 個の互換に分解できます.また,一般の置換は,巡回置換と互換の積に分解できます.
theorem
n次の巡回置換は,高々n-1個の互換の積に分解できます.
proof
証明は帰納法によります. の場合は,明らかに 個の互換, の巡回置換は二種類しかありませんが, , となって,どちらも二個の互換で表わせます.一般に 項の巡回置換が 個の互換の積で表わせるとします.このとき, 個の文字の巡回置換 を考えます.例えば に着目すると, の中には,必ず と等しいものがあるはずです(これを とします).すると, となります. の部分は の互換で表わせるはずでしたので,全体として 項の互換で表わせるはずです■
系として,この定理は次のように書かれることもあります.
theorem
任意の置換は,巡回置換の積として表わせます.
互換は巡回置換の一種なのですから,この定理は明らかです.
対称群に関する概念で大事なものに,偶置換と奇置換というものがあります.巡回置換は全て互換の積として表わせるということでしたが,一般に対称群に含まれる任意の元は,互換の積として表わせるのです.
theorem
対称群に含まれる任意の元は,全て互換の積として表わせます.
さて,では対称群の元を互換の積として表わす表わし方ですが,これは一通りには決まりません.(ちょっと考えれば分かることですが,順番に並んでいるものを並び替えるとき,効率の良い並び替え方や,余分な並び替えを含むやり方など,色々あります.)
ところが,偶数個の互換の積として表わせるか,奇数個の互換の積として表わせるかという区別は,対称群の元そのものによって,どちらかに決まっているのです.
theorem
ある置換が偶置換か奇置換かは,生来的に決まっています.
proof
任意の互換を二乗すると,元の状態に戻ります.つまり,単位元は互換の二乗で表現でき,偶置換だということができます.さて,任意の偶置換 が,他の表わし方 を持つとします( ). には逆元がありますので,両側から掛けると となります. と はそれぞれ偶置換ですので, も偶置換のはずです.奇置換についても同様に照明できます■
対称群の元 が偶数個の互換の積として表わせる場合,これを 偶置換 ,奇数個の互換の積として表わせる場合,これを 奇置換 と呼びます.偶置換か奇置換かは, という記号を使い,偶置換の場合は ,奇置換の場合は だと定めておくと,簡単に表わせます.例えば, が偶置換の場合, という具合です.