銀幕に映し出される映画のワンシーン.この映画がもしも平面ではなく,あるがままの立体的な画像として再生されることは,まだ夢のお話です.でも,ホログラフィはこの夢のお話を将来,現実のものとしてくれる可能性を持っています.ちょっと考えただけでも素敵ですよね.
そんな未来の可能性を秘めた,しかし,今現在も私たちの身近に存在するホログラフィ技術について紹介します.
なお,ご一読の前に, いろいろな干渉1 に目を通していただくことをお勧めします.
ホログラフィとは,3次元像を平面に記録・再生する技法のことです.言い換えれば,立体的な写真を撮ったり,観たりするための技術です.
そして,その"立体的写真"のことを ホログラム(hologram) といいます.
ホログラフィとは,ではどうやって作るのか? これを分かれば,もっとホログラフィがどんなものなのかを理解してもらえると思います. ホログラムには色々と種類があり, 記録方法も再生方法もいくつか存在するのですが,ここでは一番基本となる方法を書きます .
ホログラフィは,3次元の像を記録し,再生する技法です. では,3次元の像を記録するとは,どういうことでしょうか?
私たちは,ある物体から反射される光が目に入ることによって,その物体を見ることができます. そして,そのときは物体はもちろん立体的に見えます.つまり,この物体からの光を情報として記録することが,3次元の像を記録するということにつながります.
Important
物体からの光を情報として記録することが,3次元の像を記録するということにつながる.
ここで,光の情報とは「どのくらい強い光かという情報(光の振幅)」と「どの方向から光がやってきたのかという情報(光の位相)」になります.
では,具体的に図で見てみましょう.
記録に使うのは干渉性のよい,コヒーレントなレーザー光です.
“コヒーレント”という性質を光を例にとって簡単に言いますと,レーザーの持つような互いに干渉することができる性質のことです [*].
また,対物レンズは小さなスポットの光を大きなスポットにしてやるためのものです.
[*] | 詳しく言いますと,光がひとつの波長のみの成分を持ち,位相がそろった,どこまでも平行に進む光の性質のことです.なお,太陽光や蛍光灯の光はこれらの条件を全く満たさない,干渉を起こさない性質を持っており,この性質のことをインコヒーレントと言います. |
このレーザー光を図のように,ビームスプリッターで二手に分け,それぞれを対物レンズで広げます. 一つは物体に照射して反射光を生じさせ,ひとつは記憶材料に照射させます [†]. すると,二つの光の波は干渉し,記録材料上では干渉縞が発生します. この干渉縞を記録材料に記録すれば,ホログラムの完成です [‡].
図では,物体からの光(物体上のある一点からの反射光が代表で描かれています)と,ミラーから記録材料に照射する光が干渉する様子が描かれています. また,もっと縞の細かい干渉縞を見ると,面白いものが見えてきます.
上の図からは,光の波が重なっている部分に,一連の黒い縞のパターンが見受けられます.これは,モアレ縞と呼ばれるもので,これこそが2つの点から生じる光によってできる干渉縞に相当します.
この干渉縞は,先ほど述べた光の情報に相当するものです. 記録材料には,物体からの光の情報が干渉縞として記録されているんですね. そして,この干渉縞を記録した記録材料は一種の回折格子になっています.
[†] | 物体からの反射光を「物体光」,記録材料を照射する光を「参照光」といいます.物体の形状によって記録材料にやってくる物体光の位相は違います.その位相のずれを参照光の位相を基準に,干渉という現象を使って記録材料に記録します. |
[‡] | 1mmあたりに1000〜7000本の縞模様の回折格子になっています. |
上で作ったホログラムを,そのまま自然光などに照らして見たのでは干渉縞しか見えません(といっても,肉眼で見ないくらいの細かいものです).
では,そんな干渉縞を記録しただけのホログラムからどうやって3次元の像を見るのでしょうか?
でも,思い出してください.記録された記録材料表面は回折格子になっています. つまり,この記録材料に光を当てれば,光は直進するほかに回折して進むものがあるはずです. では,どんな光を当ててやれば,どんな回折光が現れるのでしょうか?
ホログラムを再生するためには,記録したときの参照光と同じ光をホログラムに当ててやります. すると,ホログラムは参照光と物体光が干渉してできた干渉縞を記録しているので,回折光は物体光とまったく同じ形をしたものになります.
上の図は左がホログラム記録時の様子,右が再生のために参照光を当てた様子になります. 「物体光と同じ形をした光が出ている」とは,上の右図でも見られますように,参照光がホログラムに照射されて,ホログラムの一点一点から回折された光を逆にたどっていくと,あたかももともと物体があった場所から光が出ているように見える,ということです. (右図中で点線で描かれている部分は,観測者にとって,あたかもそういう光の経路を通っているように見える部分です.)
ホログラムに参照光と同じ光を当ててやれば,物体からの反射光がまったくそのままの形で再生される. つまり,物体からの光の情報(強さと位相)が再生されるので,物体がまさに同じ場所に見えるのです. このために,ホログラムでは見る角度を変えても,その角度から見た物体が見えるのです. (その角度からの反射光の情報も,もちろん記録されているからですね.)
上でも述べたように,立体的な写真を作成できることから,テレビやパソコンなどのディスプレイに応用する研究が進んでいます.また,情報処理においても期待されているのです(ホログラフィの特徴で詳しく説明します).
現在,このホログラフィが応用されている分野は物理的測定や,セキュリティの分野,そしてCDなどの産業分野です.
ホログラフィが結構,身近にあることがお分かりでしょう!
一番確かめやすいものとして,お札があります.5千円札や1万円札の左下のキラキラと虹色に輝く部分をご覧ください(手元にない方,すいません).
見る角度を変えると,見える絵も見える色も変わります.これはまさに回折格子であり,すなわちホログラムと言えます.
実はまだまだ他にも,紹介しきれないほどたくさんあるんです.
ホログラフィは様々な分野に応用が可能で,これからも研究がどんどん進んでいく技術です. では,それはどのような特徴があるからなのでしょうか?まず,長所は・・・
これらの長所について,上の説明だけでは分からないと思います.なので,ここではそういう長所が存在することだけ見ていただければいいです. 1番の長所からは,ホログラフィを物理的測定や観賞用装置としての研究の可能性があることがわかります. 2,3番の長所からはコンピュータのメモリ素子としての可能性が見えてきます.
また,ホログラフィを開発する上でネックとなる短所は・・・
現在,4,5番は研究が進められている分野なのです.