渦度ベクトルと循環

ベクトル場 \bm{u} が流れ場を意味するとき,次式で定義されるベクトルを 渦度ベクトル と呼びます.

\bm{\omega} = \nabla \times \bm{u}     \tag{1}

渦度ベクトルの各座標成分は,座標軸に直交する平面内の渦度を表わしています.(例えば, \bm{\omega}x 成分は yz 平面内の渦度を表わします. rot を参照して下さい.)また, \bm{\omega} の流線を 渦線 と呼び, \bm{\omega} の流管を 渦管 と呼びます.渦線の方程式は次のように与えられます.

\frac{dx}{\omega_{1}} = \frac{dy}{\omega_{2}} = \frac{dz}{\omega_{3}}  \tag{2}

渦糸は,渦管の無限に細いものだと考えることも出来ます.粘性抵抗の働かない流体(完全流体と呼びます)においては,渦は消えたり生まれたりしないことが知られており, 渦は不生不滅 などと言われます.

[*]この定理は,ラグランジェの定理,ケルビンの定理,ヘルムホルツの定理などとも呼ばれます.これらの定理は,多少表現が異なりますが,結局,渦の不生・不滅を主張するものです.ここではあまり詳しい説明はしませんので,興味のある人は流体力学の教科書を参考にしてみて下さい.

循環

流れ場の中のある閉曲線 C に沿って, C の接線速度を周回積分したものを 循環 と呼びます.循環は,ストークスの定理を用いると,渦度ベクトルの面積分に直すことも出来ます.

\Gamma &= \ointop \limits _{C} \bm{V} \cdot d\bm{l }  \\&= \int \int \limits _{S} (\nabla \times \bm{V}) \cdot d\bm{S} \\ &= \int \int \limits _{S} \bm{\omega} \cdot d\bm{S}  \tag{3}

三行目で,任意に渦管を取るとき,その断面で循環の大きさは常に同じだということが言えます.(流管の断面を単位時間当たりに過ぎる流量が一定であることと,基本的には同じ理屈です. ベクトル場の流束と流管 を参照して下さい.)特に,渦糸は断面積が無限に小さい渦管と見なせますので,その断面の曲率を無視して断面積を {\sigma} とし, \omega = |\bm{\omega}| とすると次式が成り立ちます.

\Gamma = \omega \sigma        \tag{4}

この \omega \sigma 渦糸の強さ と呼びます.渦や渦糸の話題は尽きませんが, 詳しくは流体力学の解説を見て下さい.この記事は,ベクトルの回転,ストークスの定理,流線,流管といった概念の応用例として,渦と循環をほんの少しだけ取り上げてみました.(いずれ,流体力学の記事もきちんと書くかも知れません.)