気圧の単位は天気予報でおなじみの hPa(ヘクトパスカル)で表されます. h(ヘクト)というのは k(キロ)や M(メガ)などと同じように単位に付ける接頭記号で, 102のことで,1hPa = 100 Pa です.これはキロやメガほどは馴染みがないかもしれません.
また,Pa(パスカル)は圧力の単位で,1 Pa = 1 N/m2(ニュートン毎平方メートル)です. N(ニュートン)は力の単位ですね. 圧力の大きさは1平方メートルあたりいくらの力が加わっているかで表されます.
他にも圧力の単位には Torr(トール)や bar(バール)がありますが, 数年前に Pa で統一しようということになりました. 昔の天気予報や気象通報で mbar(ミリバール)という言葉を聞いたことがある人も多いと思います. また,Torr は真空技術の分野では今も使われていることが多いようです.
「1気圧はいくらですかですか」と聞かれたら, 少し気象の知識があればすぐに 1013hPa だと答えられるでしょう. ではこれはどうやって分かったのでしょうか.
その昔,トリチェリという人がある実験を行いました. 1気圧の下で1メートルくらいの密封した筒に水銀を詰め,水銀を満たした皿の上でひっくり返すと, 筒の中の水銀は徐々に下がってきて高さが 760mm になったところで止まります.
これは大気圧と水銀がつり合ったために起こる現象です. 大気圧と水銀柱がつり合っているということは, 1気圧の圧力の大きさは水銀柱による力を計算することで求められます. また,水銀を詰めた密封した筒は水銀が下がることによって上の部分が真空状態になります. これはトリチェリの真空と呼ばれます.単位Torrはトリチェリのことで,760Torr = 1気圧です.
手元に理科年表と電卓があるので,水銀柱の力を考えて1気圧の力をできるだけ正確に計算してみます. まず,いままで1気圧という言葉を使ってきましたが,これは標準大気圧のことです. これを 1 atm と書き,その大きさは
と定義されています.1 mmHg は高さ 1 mm の水銀柱が単位面積あたりに及ぼす力です. また,理科年表によると
ということが分かります.ここから 1 atm の大きさを N/m2 の単位で求めることができます.
高さ 760 mm,底面積 1 m2 の水銀柱の質量は,体積に密度を掛けてやれば分かります. 760 mm = 0.76 m なので,この体積は
ですから,質量は
質量
= 0.76 m3 × 13.5951×103 kg/m3
= 1.033227×104 kg
となります.
水銀柱の質量が分かったので,運動方程式 F = ma から質量による力を求めることができます. 地上での物体は常に地球の重力による加速度(重力加速度)を受けているので,力は
力
= 質量 × 重力加速度
= 1.033227×104 × 9.80665 m/s2
= 1.01325×105 kg・m/s2
= 1.01325×105 N
となります.
高さ 760 mm,底面積 1 m2 の水銀柱による力は 1.01325×105 N と分かりました. 単位面積とは 1 m2 のことなので,これは圧力に他なりません.したがって
1 atm = 1.01325×105 N/m2
N/m2 は気圧の単位 Pa のことなのでつぎのようにも書けます.
1 atm = 1.01325×105 Pa
さらに,単位接頭記号の h = 102 を使うと
1 atm
= 1.01325×103 hPa
= 1013.25 hPa
となり,おなじみの 1013ヘクトパスカルが求まりました.