力学的エネルギー保存則の導出

力学的エネルギー保存則を運動方程式から導いてみましょう.

  1. 運動方程式を立てる
  2. 両辺に速度の成分を掛ける
  3. 両辺を微分の形で表す
  4. イコールゼロの形にする

という手順で導きます.

運動方程式を立てる

まず,つぎのような運動方程式を考えます.

ma = -kx + mg

これは重力 mg とばねの力 -kx が働いている物体(質量は m )の運動方程式です.

両辺に速度の成分を掛ける

つぎに,運動方程式の両辺に速度の成分 v を掛けます.

mav = -kxv + mgv \tag{1}

なぜそんなことをするかというと,こうすると都合がいいからです.どう都合がいいのかはもう少し後で分かります.

両辺を微分の形で表す

式(1)は

\frac{d}{dt}\left(\frac{1}{2}mv^2\right) = \frac{d}{dt}\left(-\frac{1}{2}kx^2+mgx\right) \tag{2}

と微分の形で表すことができます.左辺は運動エネルギー,右辺第一項はバネの位置エネルギー(の符号が逆になったもの),右辺第二項は重力の位置エネルギー(の符号が逆になったもの),のそれぞれ時間微分の形になっています.なぜこうなるのかを説明します.

加速度 a と速度 v はそれぞれ

a = \frac{dv}{dt},\qquad v = \frac{dx}{dt}

という関係にあります.加速度は速度の時間微分,速度は位置の時間微分です.この関係を使って計算すると式(2)の左辺は

\frac{d}{dt}\left(\frac{1}{2}mv^2\right) = \frac{1}{2}m\frac{d}{dt}(v^2) = \frac{1}{2}m\cdot 2v\frac{dv}{dt} = mav \tag{3}

となります.ここで1行目から2行目のところで合成関数の微分公式を使っています.式(3)は式(1)の左辺と一緒ですね.運動方程式に速度 v をあらかじめ掛けておいたのは,このように運動方程式をエネルギーの微分で表すためです.同じように計算していくと式(2)の右辺の第1項は

\frac{d}{dt}\left(-\frac{1}{2}kx^2\right) = -\frac{1}{2}k\frac{d}{dt}(x^2) = -\frac{1}{2}k\cdot 2x\frac{dx}{dt} = -kxv

となり,式(2)の右辺第1項と同じになります.第2項は

\frac{d}{dt}\left(mgx\right) = mg\frac{dx}{dt} = mgv

となり,式(1)の右辺第2項と同じになります.

なんだか計算がごちゃごちゃしてしまいましたが,式(1)と式(2)が同じものだということがわかりました.これが言いたかったんです.

イコールゼロの形にする

式(2)の右辺を左辺に移項すると

\frac{d}{dt}\left(\frac{1}{2}mv^2+\frac{1}{2}kx^2-mgx\right) = 0

という形になります.この式は何を意味しているでしょうか.カッコの中身はそれぞれ運動エネルギー,バネの位置エネルギー,重力の位置エネルギーを表しているのでした.

それらを全部足して,時間微分したものがゼロになっています.ということは,エネルギーの合計は時間的に変化しないことになります.つまりエネルギーの合計は常に一定になるので,エネルギーが保存されるということがわかります.