ここでは「上弦の月」「下弦の月」について解説をします.
次の図を見てみて下さい.どちらが上弦の月で,どちらが下弦の月でしょう?
左が上弦の月で,右が下弦の月?
確かに,月を弓に見立てたときには,左側の月では弦が上にきていて,右側の月では弦が下にきていますね. だから左側が上弦の月,右側が下弦の月ということですね.
よろしいでしょうか.ファイナルアンサー?
ファイナルアンサーと応える前に,もう少し考えて見ましょう. 月が出てから沈むまでの様子を,上弦の月,下弦の月について見てみます.
左側が上弦の月,右側が下弦の月の「月の出」から「月の入り」までを時系列順に並べたものです. あれあれ?月の出の直後は,下弦の月の弦が上を向いていて上弦の月の弦が下を向いてしまっていますね. しかも南中したときには弦は横を向いてしまっていますよ. [*]
そうなんです,実は「上弦の月」「下弦の月」の由来は「月を弓に見立てたときに,弦が上を向いているか下を向いているか」ではないのです. 弓に見立てたときの弦が上を向いているか,下を向いているか,で両者を分けられるのは月が沈む時間だけなんですね.
[*] | ちなみに,上弦の月は昼間に出て夕方に正中し,深夜に沈みます.下弦の月は深夜に出て明け方に正中し,昼間に沈みます. |
ではいったい「上弦の月」「下弦の月」とはどのようなものなのでしょうか? [†]
これには「太陰暦」が関係しています. 日本では昔,太陽を基準とした暦「太陽暦」ではなく,月を基準とした暦「太陰暦」が用いられていました. 太陰暦では月を基準としているので,たとえば3月3日というと月が新月から数えて3日目です. そしてこのような日には,必ず西空に三日月が見えていました. また太陰暦では満月は必ず15日目に東の空から上ります. 満月の日を「十五夜」とよぶのもここからきています.
さて,このような暦では月の前半を「上」,半ばを「中」,後半を「下」とよんでいました. [‡]
上にあたる7日頃と,下にあたる21日頃には月の見かけが半月になり弓を張ったような形になります.
このように弓を張ったような形に見えるということで,これが「弦」とよばれるようになりました.ここで注意しておきたいのは,半月の直線部分を弦と呼んでいるのではなく,半月そのものを弦と呼んでいるということです. [§]
つまり「上弦の月」「下弦の月」の上下とは「弓に見立てたときの弦が上を向いているか下を向いているか」ではなく「上に見える弦」なのか「下に見える弦」なのかという時期を表す上下であり,弦というのは半月そのものを表しているのです.
[†] | このセクションで書いたのは一つの「説」です.この説を裏付ける資料をお持ちでしたら,ぜひお知らせ下さい! |
[‡] | 現代では「上旬」「中旬」「下旬」とよんでいますよね. |
[§] | 数学では「弦とは円周上の2点を結ぶ線分」として定義されています. |