変分原理

変分原理とは

解析力学の魅力のひとつに,力学を理論的に考察するのに都合のよい美しい形式を持つこと があげられます.そのときに,強力な武器となるもののひとつが変分原理 [*] です.ここでは, 変分原理とはどのようなものなのかを紹介しましょう.

まず, ラグランジュの運動方程式を確認しよう! では,自由度 n の質点系がポテンシャルによる力(基本的に保存力)のみで運動する場合を考えました.そのときのラグランジュの運動方程式の導出は以下の手順で行いましたね.

1.作用と呼ばれる量 I をラグランジアンを用いて次のように定義しました.

I = \int_{t_1}^{t_2} L(q(t),\dot{q}(t)) \mathrm{d} t

2.質点系の運動の軌跡を少しずらしたときに生じる I の微小変化 \delta I (第1変分と呼びます)を 0 とおきます. ここで,軌跡の微小変化 \delta q_k の2次以降の項を無視して \delta I は次式にまとめられましたね.

\delta I = \int_{t_1}^{t_2}\sum_{k=1}^{n}\left(\frac{\partial L}{\partial q_k} - \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}\frac{\partial L}{\partial \dot{q}_k}\right)\delta q_k \mathrm{d}t

3.これで,ラグランジュの運動方程式が任意の一般座標について導出できました.

\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}\frac{\partial L}{\partial \dot{q_k}}-\frac{\partial L}{\partial q_k} = 0

この導出過程を見ると,ラグランジュの運動方程式と \delta I = 0 は同値になっていることが分かります.つまり, どちらも同じ運動を表現する別の表現に過ぎないので,どちらを基本法則として扱ってもよいということになります. そこで,変分原理とは何者なのかという問いに次のように答えることができるでしょう.

Important

作用 I が停留点を取るとき,その運動が実現するということを積極的に認めて力学を考えていくという 立場にたったとき,基本法則となるのが変分原理 \delta I=0 なのです.

変分原理を認めてしまえば,そこからさまざまな力学の法則を導くことができます.まずは,ラグランジアンに取り込めなかった 力(主に非保存力)が働いているときのラグランジュの運動方程式を導いていきましょう.

[*]変分原理には,ほかにもいくつか呼び方があり,ハミルトンの原理や,最小作用の原理ということもあります.最小作用の原理という名は, I の停留点が現実の運動では, I の極小値を表すことが多いことから来ていますが,一般的には停留点であるので,この記事では変分原理で統一しました.一番好きな名前で呼んでください.^^

非保存力がある場合のラグランジュの運動方程式

問題の設定はほとんど ラグランジュの運動方程式を確認しよう! の時と同じです.時刻 t=t_1 から時刻 t=t_2 の間に生じる自由度 n の質点系の運動を考えて,用いる一般座標を q_1,q_2,\cdots,q_n とします.

非保存力がする仕事を W と表現しておきましょう. Q_k を一般座標 q_k の共役な力とします. このとき,一般化力の定義より W の変分 \delta W は,一般に次の形でかけます.

\delta W = \sum_{k=1}^{n}Q_k \delta q_k  \tag{1}

ここで,作用 I を次式で定義します.

I = \int_{t_1}^{t_2} \left(L(q(t),\dot{q}(t))+W \right) \mathrm{d} t \tag{2}

運動の出発点と終着点を固定して,実際の運動から経路を \delta q_k だけずらしてみましょう. ただし,出発点と終着点は固定しているので, k=1,2,\cdots,n について次の条件を要求します.

\delta q_k(t_1) = \delta q_k(t_2) =0 \tag{3}

これも前と同じですね.

この条件で第1変分 \delta I を計算してみましょう.といっても,ラグランジアンの計算は まったく同じですし, \delta W は式(1)で表せるので,直ちに次式が導けます.

\delta I = \int_{t_1}^{t_2}\sum_{k=1}^{n}\left(\frac{\partial L}{\partial q_k} - \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}\frac{\partial L}{\partial \dot{q}_k} + Q_k \right)\delta q_k \mathrm{d}t  \tag{4}

あとは, \delta I = 0 とおけば,運動方程式が k=1,2,\cdots,n として

\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}\frac{\partial L}{\partial \dot{q}_k}-\frac{\partial L}{\partial q_k}=Q_k \tag{5}

と導かれます.

非保存力がないときは,右辺が 0 でしたが,非保存力がある場合も右辺に q_k に共役な力をおけば 良いんですね.

[†]変分原理は解析力学にとどまらず,電磁気学,相対論,量子論などの定式化に応用されています.物理法則の原理のほとんどは変分原理で成り立っているといっても過言ではないでしょう.そんな変分原理から解析力学を一望できたら本当にすばらしいですよね!