面積分

スカラー関数 f(x_{1},x_{2},x_{3}) を積分することを考えます.積分領域の形には色々あり,例えば 線積分 は,積分領域が曲線に制限されたものでした.ここでは,積分領域が曲面に制限されているものを考えます.

変数 x_{1},x_{2},x_{3} が,ある曲面 D 上を動き回るとし, D を点 M_{i} \ (1 \le i \le n) を中心とする n 個の区画に分割します.そして, D 上の点 M_{i} における関数の値を f(M_{i})M を中心とする微小面積を \Delta S_{i} とし,次のような量を考えます.

\sum \limits _{i=1}^{n} f(M_{i}) \Delta S_{i}  \tag{1}

現在の状況を図にすると,次のような感じでしょう.(曲面上の各微小区画で,それぞれ関数値が与えられているというイメージを一生懸命描いてみました.式 (1) は,次図の柱の体積の総和になりますね.)

Joh-SurfaceIntegral01.gif

各微小面積×関数値の和は,こんなイメージでしょうか.なかなか絵は上達しません.

ここで n \rightarrow \infty なる極限を取り,同時に分割区画を極限まで小さくして行くと,式 (1) は次の積分形で表現されることになります.これを 面積分 と呼びます.

\int \limits _{D} f dS \tag{2}

ポイントは,積分領域が曲面になっているという点です.式 (2) はスカラーの形ですが,微小面積要素 dS を, 面積ベクトル の形で d\bm{S}=\bm{n}dS と書いて( \bm{n} は法線ベクトルです),ベクトル形で表現する面積分もあります.こちらの方が,物理学の計算では重要です.

\int \limits _{D} f d\bm{S} & = \int \limits _{D} f \bm{n}dS \\ & = \bm{e_{x_{1}}} \int \limits _{D} f (\bm{n} \cdot \bm{e_{x_{1}}})dS+ \bm{e_{x_{2}}} \int \limits _{D} f (\bm{n} \cdot \bm{e_{x_{2}}})dS+ \bm{e_{x_{3}}} \int \limits _{D} f (\bm{n} \cdot \bm{e_{x_{3}}})dS \tag{3}
[*]ただし,ここで積分領域として考えている曲面には,全て『表・裏』の向きが定義できるものとします.どちらが表でどちらが裏か,というのは便宜的に決めて良いのですが,一度決めれば,表裏が区別できるというのが重要です.世の中には次図のメビウスの輪のように,表と裏を区別できないような曲面も存在します.今後,面積分に関する記事では,特に断りのない限り,表裏を区別できる曲面だけを扱うものとします.
Joh-MaxBillMoebius.png

メビウスの輪.表と裏の決められない曲面の代表的な例だ.写真はMax Bill氏の作品.(花崗岩製,パリ・ポピドゥーセンター所蔵)

ベクトルの面積分

(2)(3) では被積分関数がスカラーでしたが,ベクトル関数の面積分を考えることもできます.ベクトルには,スカラー積,内積,外積といった演算がありましたから,面積分にも次の 3 種を考えることができます.

\int \limits _{D} \bm{A} dS = \int \limits _{D} A_{1} dS + \int \limits _{D} A_{2} dS + \int \limits _{D} A_{3} dS     \tag{4}
\int \limits _{D} \bm{A} \cdot  d\bm{S} &= \int \limits _{D} \bm{A} \cdot  \bm{n}dS  \\& = \int \limits _{D} A_{1} (\bm{e_{1}}\cdot \bm{n})dS+ \int \limits _{D} A_{2} (\bm{e_{2}}\cdot \bm{n})dS+ \int \limits _{D} A_{3} (\bm{e_{3}}\cdot \bm{n})dS  \tag{5}
\int \limits _{D} \bm{A} \times  d\bm{S} &= \int \limits _{D} \bm{A} \times  \bm{n}dS  \\ & =\bm{e_{1}} \int \limits _{D} (A_{2}n_{3}-A_{3}n_{2})dS +\bm{e_{2}} \int \limits _{D} (A_{3}n_{1}-A_{1}n_{3})dS +\bm{e_{3}} \int \limits _{D} (A_{1}n_{2}-A_{2}n_{1})dS    \tag{6}

(5) の形の面積分には,後で勉強するように ガウスの発散定理 という有名な定理が関係し,実際に物理学に関係する場面で一番よく出てくるものです.

面積分の和

面積分の領域 S を複数の領域に分割できる場合,面積分を積分領域に従って和の形に表すことができます.この定理は応用上,非常に重宝します.変な形の積分領域は,分かりやすい形に分割してしまえば良いわけです.

Joh-SurfaceSplit.gif
\int \limits _{S_{1}+S_{2}} f dS = \int \limits _{S_{1}} f dS + \int \limits _{S_{2}} f dS
\int \limits _{S_{1}+S_{2}} f d\bm{S} = \int \limits _{S_{1}} f d\bm{S} + \int \limits _{S_{2}} f d\bm{S}
\int \limits _{S_{1}+S_{2}} \bm{A} dS = \int \limits _{S_{1}} \bm{A} dS + \int \limits _{S_{2}} \bm{A} dS
\int \limits _{S_{1}+S_{2}} \bm{A} \cdot d\bm{S} = \int \limits _{S_{1}} \bm{A}  \cdot d\bm{S} + \int \limits _{S_{2}} \bm{A} \cdot d\bm{S}
\int \limits _{S_{1}+S_{2}} \bm{A} \times d\bm{S} = \int \limits _{S_{1}} \bm{A}  \times d\bm{S} + \int \limits _{S_{2}} \bm{A} \times d\bm{S}