ポテンシャルと流線

この記事は,一つ前の 多価関数のポテンシャル の内容の続きになっています.

一価ポテンシャルの流線

単連結な領域で定義されたポテンシャル場 \bm{A} は一価関数によって与えることができました.そして,このポテンシャル場には次のような大きな特徴がありました.

  1. 線積分 \int \limits_{L} \bm{A} \cdot d\bm{r} は積分経路によらない.
  2. 周回積分 \ointop \limits_{C} \bm{A} \cdot d\bm{r} は,積分経路によらず常に 0 になる.

本当はこの二つは同じことを言っているんですが(1の線積分で始点=終点としたら,2の周回積分になりますからね),非常に大事な性質なので別に書いてみました.この二番目の性質より,次のことが言えます.

theorem

単連結な領域で,一価ポテンシャル関数によって与えられる流れ場に,閉じた流線はありません.

proof

もし閉曲線となる流線があれば,その流線に沿って線積分を考えるとき,流れと同じ方向なら \bm{A}\cdot d\bm{r} は常に正,流れと逆方向なら常に負となり,どっち向きに一周しても 0 にはなりません.よって,流線は閉曲線にはなりません.■

例えば, 多価関数のポテンシャル の最後で取り上げた,直線電流がビオ=サヴァールの法則によって作る磁場は,電流を中心とする同心円状の閉曲線になりますから,この流れを一価ポテンシャル関数で表わすのは無理で,多価ポテンシャル関数による表現になるわけです.

theorem

流線が閉じる流れをポテンシャルで表わせるとすれば,それは多価関数になります.

[*]ただし,多重連結領域の多価ポテンシャル関数も,工夫して(例えば穴を塞ぐなどして)領域を単連結に直すことで一価関数にすることが出来ます.そうすると,同時に閉曲線状の流線は有限領域には描けなくなります.こういった操作については,難しいのでここでは取り上げません.詳しくは,また機会があれば電磁気学の分野などで,具体的な問題とともに考えてみたいと思います.