ベクトル場 が, を満たすとき管状ベクトル場, を満たすとき層状ベクトル場と呼ぶのでした.この両方を満たすようなベクトル場,すなわち管状でもあり層状でもあるベクトル場を ラプラス場 と呼びます.
ラプラス場が単連結領域で定義されている場合,この流れは ラプラス方程式 を満たすスカラーポテンシャルによって記述されます.
式 で表現される が,式 の条件を両方満たすことを確認してみて下さい.ラプラス方程式の解となる関数を,一般に 調和関数 と呼ぶのでした.調和関数には,以下に紹介するような重要な諸性質があります.ラプラス場の解析では,これらの性質が効いて来ます.
[*] | 以下の諸性質は,ベクトル場の問題というよりは調和関数の性質に関する話題です.物理の様々な場面で,ラプラス方程式を適当な境界条件下で解く問題は重要ですが,これは,ベクトル解析の問題というよりは,微分方程式論もしくはポテンシャル論の守備範囲になると思います.ですから,これらの事項を今すぐ覚える必要はないと思いますが,いずれ使う日が来ると思いますので,ここでざっと見ておいても損はないと思います.この記事では,あまり詳しい所までは取り上げません. |
次の公式を グリーンの定理 の最後で求めました.
この右辺は を代入すると第一項が消えて簡単化します.式 の表式に従う一般にはスカラーポテンシャル では,領域内の点 における値を決めるのに,領域における体積分と面積分の両方を考えなければならなかったのに対し, が調和関数なら,面積分だけで良くなるわけです.
また,式 の曲面 を点 を中心とする半径 の球面 とすると, が成り立ちます.(球は全方位に対称ですから,法線ベクトルを全部足したら になりますね).また, にも注意すると,式 は次のように簡単化されます.
球対称なポテンシャルの分布を考える問題は,割合によく物理学に出て来る重要な形ですので,式 の形よりも式 の簡単形で使う方が実用的かも知れません.式 は『点 における調和関数 の値は, を中心とする球内(半径によらない!!)の の値の平均値に等しい』という主張だと読めます.
[†] | これは著しく美しい調和関数の性質です.例えば,代表的な調和関数である三角関数を思い浮かべれば,周期的に変動する値を,平均値で表わすという意味が直観的に分かりやすいと思います. |
調和関数 が領域 内で定数関数ではないとすると, は 内で最大値も最小値も取りません.
proof
例えば,もし 内の点 で が最大値を取ったとすると, をすっぽり包むような を中心とする半径 (十分大きい)の球状領域 を, となるように取れます.ただし, は 内の任意の点とします.一方,式 より, (中辺は 内の の平均値の意味)が要請されます.これはおかしいので,結局, は最大値を取らないことになります.同様にして,最小値も取れません.■
theorem
領域 の境界は閉曲面 だとします.調和関数 がもし 上で一定値 を取るなら, は 内の至るところで一定値 を取るということが言えます.
(式 で と置けば示せます.)
theorem
ラプラス方程式 は,境界 上の境界条件下に解くとき,一意的な解を持ちます.
proof
もし が二つの解 を持つとすると,ラプラス方程式の線形性より,その差 もやはりラプラス方程式を満たすはずです.ところで,境界 上では と は同じ値を取るはずで, となります.すると,性質5より, 内では至るところ となりますので,すなわち が示されます.■
[‡] | ラプラス方程式 に,境界条件として境界上の値 を与えて解く問題をディレクレ問題と言います.境界条件として境界上での方向微分 を与えて解く問題をノイマン問題と言います.いずれも物理学で重要な微分方程式ですが,ここではその解法までを示すことはしません.興味のある人は微分方程式論やポテンシャル論といった題名の教科書を当たってみて下さい. |
theorem
ラプラス方程式 が,境界 上で を満たすとき, 内の至るところで となります.
proof
これは, グリーンの第一定理 の系 より, を得ます.これより となり,積分して を得ます.■
theorem
ラプラス方程式 の二つの解 の方向微分が,境界 上で同一であるとき, となります.
proof
二解の差 の方向微分を取って となりますが,右辺は条件より となります.これを積分すると, を得ます.■