熱力学を勉強する前に

熱力学の世界へようこそ!これから熱力学を勉強しようという人,もっと熱力学を深く勉強したいという人,私は熱力学のエキスパートだ という人…どんな人も,熱力学を勉強する前に心に留めておくべきことがあります.ここでは,その「心に留めておくべきこと」を最低限 の3つに絞って述べます.さあ,熱力学への扉を開けましょう!

「巨視的」であれ!

熱力学を勉強する時に忘れてはならないことの一つ目.それは「熱力学体系を 巨視的 (macroscopic)に扱う」ということです. 「巨視的」とは,ものすごく大雑把な言い方をすると「 系全体を見ろ!系の細部は見るな! 」ということです [*] . 「森を見て木を見ず」とでも言いましょうか….

具体的に例を挙げます.今,目の前に10℃の水が浴槽にはってあるとします.これを40℃にするために湯沸かし器で水を加熱しましょう. お湯が40℃になった時,元の10℃の水より「温度が30℃上昇した」と認識することが「熱力学体系を 巨視的 に扱う」ということです. ここで私達現代人は,なまじっか「水分子」などというものの存在を知っているがために,「えーっと…,水分子が湯沸かし器からの熱 を得てその運動エネルギーを上昇させたから,その結果水分子の集合体である水全体の温度が上がった,ということかな.あ,だから 水の温度が上昇したというのは水分子の運動エネルギーの増加分の総和の結果なんだ!!」…とかなんとかうんちくを述べてしまいます. 原子や分子の運動などという細かいこと [†] は,熱力学において考える必要はありません!水という 集合体全体に何が起きたのか を 見れば良い,ということを心に留めておいてください.

[*]「系」というのは「一定の相互作用または相互関連を持つ物体の集合」のことです.「熱力学体系」というと,例えば考察対象となっている気体や液体全体のことを指します.
[†]こういった細かいことを考える学問は「統計熱力学」です.これは確率論と統計学を用いて物質の状態を表現しようとして「熱力学」における巨視的な視点を微視的な視点にして考察対象の系を扱う学問です.

まず,結果ありき

熱力学を勉強する時に忘れてはならないことの二つ目.

巨視的な熱力学は,第0法則・第1法則・第2法則・第3法則と呼ばれる4つの基本法則から成っていて,これらに基づいて発展してき ました.これら4つの法則は 実験結果に基づく経験則そのもの なのです.実験すると結果は必ず何らかの法則性にのっとったものになるから, それを法則にしちゃおう,という感じです.

実はこれも先程述べた「巨視的」扱いと関係があります.「なぜ,そうなるのか?」と考えるのではなく,「そのように変化するのだ!」 と巨視的に考える.私達現代人からすると,うまく丸め込まれているような気がしなくもないですが,熱力学において考えなくても良い と言ってくれている部分はそのままありがたく鵜呑みにしておきましょう.

平衡状態として考える

熱力学を勉強する時に忘れてはならないこと,最後の一つは 系が平衡状態にある場合を扱う ということです.これを熱力学において は 熱力学的平衡 (thermal equilibrium)といいます [‡] .「熱力学的平衡」とは,観測可能な特性 [§] が時間に伴って変化することがなくなった 状態を意味しています.この「熱力学的平衡」状態を前提とすることで取り扱う問題が簡略化されるため,熱力学において重要な手法と なっているのです.

小難しい単語を並べましたが,要は「きゃー!!観測可能な特性の時間変化までもを扱うなんて,計算が難しいようー(涙)」と 思わないで済む 状態を 扱いましょう,ということです.

[‡]一般には「熱力学的平衡」とはあまり言わず,「熱平衡」という言葉が用いられます.
[§]「観測可能な特性」とは,例えば系全体の温度や体積,圧力などのことです.

確認しよう!

以上述べたことを確認しておきましょう.「心に留めておくべきこと」は 3つ です.

Important

熱力学体系は必ず巨視的に扱う.

Important

熱力学で用いられる法則は,実験結果に基づくものである.

Important

熱力学体系が平衡状態にある場合を扱う.

これで勉強の準備は完了!早速,熱力学本編の記事を読んでみましょう!