ボルツマン定数

この記事では,ボルツマン定数の定義である「一分子あたりの気体定数」

k_B = \frac{R}{N_A} \tag{1}

(ただし, R が気体定数で, N_A がアボガドロ数)

と「ボルツマンの関係式」つまり,

S=c \log \Omega_0 \tag{2}

S はエントロピー, c はある定数, \Omega_0 は 系の状態数)

において,

k_B = c \tag{3}

となることを確認します.

理想気体の状態数

まず, N 個の単原子分子からなる体積 V の箱につまっている 理想気体を考えます. この系の状態数 \Omega_0 を古典的に求めます.

この系のエネルギーは,

H=\sum_{i=1}^{3N}\frac{p_i^2}{2m}

ここで,系の分子のデカルト座標に共役な, 運動量を p_i\ \ (i=1,2,3,\cdots,3N) としました.エネルギーが E 以下の状態数は, 次の式で求められます.

\Omega_0(E,N,V)=\frac{1}{h^{3N}N!}\int_{H \leqq E} d \Gamma \\\frac{1}{h^{3N}N!}\int_{H \leqq E}  \prod_{i=1}^{3N} dx_i \prod_{i=1}^{3N} dp_i

ここで, h はプランク定数, H は系の エネルギー, d \Gamma は位相空間における 微小体積要素です.

位置座標についての積分は, V^N となりますから,

\Omega_0(E,V,N)=\frac{V^N}{h^{3N}N!}\int_{\sum p_i^2 \leqq 2mE} \prod_{i=1}^{3N}dp_i

この式の積分部分は,半径 \sqrt{2mE}3N 次元の球 の超体積なので [*]

[*]n 次元の単位球(半径が1の球)の体積 は, \frac{\pi^{n/2}}{\Gamma(\frac{n}{2}+1)} です.
\Omega_0(E,N,V) = \frac{V^N}{h^{3N}N!} \frac{(2\pi m E)^{3N/2}}{\Gamma(\frac{3N}{2}+1)} \tag{4}

となります.

数学的準備

ここで,ガンマ関数は,

\Gamma(z)=\int_{0}^{\infty} t^{z-1}e^{-t} dt

であり,具体的な値としては, n が自然数の時,

\Gamma(n+1)=n! \tag{5} \Gamma(n+\frac{1}{2})=\frac{(2n)!}{2^{2n}n!}\sqrt{\pi} \tag{6}

が挙げられます.

また, N が十分に大きい時成立するスターリングの近似公式

\log N! = N \log N -N + O(\log N) \tag{7}

も使います.ちなみに O(\log N) はランダウのオー記号と呼ばれるもので, カッコ内の式と同程度の小ささであることを示しています.小文字の o にすると, カッコ内の式よりも小さいという事を示します.

エントロピーと熱力学的関係

準備が整ったのでエントロピーを計算します.式 (2) より,

S(E,N,V) &= c \log \Omega_0 \\&= Nc\{ \log \frac{V}{N} + \frac{3}{2} \log \frac{2E}{3N} + \log \frac{(2\pi m)^{3/2}e^{5/2}}{h^3} \} \tag{8}

今,式 (5) ,式 (6) ,式 (7) を用いました. 熱力学的関係により [†]

\frac{p}{T} = \left( \frac{\partial S}{\partial V} \right)_{E,N} = \frac{Nc}{V} \tag{9}
[†]ここでは,エントロピーの定義 \mathrm{d}S=\frac{\mathrm{d}E}{T} +\frac{p}{T}\mathrm{d}V -\frac{\mu}{T}\mathrm{d}N を用います.

よって,

pV=NcT \tag{10}

となります [‡]

[‡]最初に一原子分子としましたが,状態数を求める際の位置座標での積分から状態数が V^N の因子がでてくるのは変わらないので, これは二つ以上の原子からなる分子についても同様です.

これを理想気体の方程式

pV &= nRT \\&= n N_A k_B T \\&= N k_B T \tag{11}

と比較すれば,

c = k_B \tag{12}

が成立することが分かります.

それでは,今日はこの辺で.