任意方向の1/2スピンの回転と実現方法

この記事は有名サイト『EMANの物理学』さんの スピノールの記事 に感銘を受け書いた記事です. 理論的な内容はあまりなく,EMANさんの理論が上手くできていると言うことを確認する感じです. 任意方向軸 (x,y,z) = (\sin \theta \cos \phi, \sin \theta \sin \phi, \cos \theta) のスピンの有限角度 \alpha 回転を 扱います.ちなみにこの場合の \alpha の正の方向は,その方向に右ねじを回して進む方向が, x,y,z 軸の正の方向と一致するように決めます.

EMANさんの結果

EMANさんの記事では,一般方向の有限角回転の演算子が書いてあります. それは,結果を要約して示すと,

U(\alpha) = \exp \left( -\dfrac{i}{2} \bm{\alpha} \cdot \bm{\sigma} \right) \tag{1}

ここで, U(\alpha) は2×2のユニタリー行列,

\bm{\alpha} = \left( \alpha \sin \theta \cos \phi, \alpha \sin \theta \sin \phi, \alpha \cos \theta \right) \tag{2}

は,長さ \alpha が回転角であり,向き \dfrac{\bm{\alpha}}{\alpha} が回転軸となるベクトル,シグマはパウリ行列であり,

\bm{\sigma} &= \left( \sigma_x, \sigma_y, \sigma_z \right) \\\sigma_x &= \begin{pmatrix}0 & 1 \\1 & 0\end{pmatrix}, \ \ \ \sigma_y = \begin{pmatrix}0 & -i \\i & 0\end{pmatrix}, \ \ \ \sigma_z = \begin{pmatrix}1 & 0 \\0 & -1\end{pmatrix} \tag{3}

なので,内積は2×2行列であり,

\bm{\alpha} \cdot \bm{\sigma} =\begin{pmatrix}\alpha \cos \theta & \alpha \sin \theta e^{- i \phi} \\\alpha \sin \theta e^{i \phi} & - \alpha \cos \theta \end{pmatrix} \equiv \alpha \sigma_n \tag{4}

となります.

EMANさんの記事には,z 軸方向の回転行列 U(\alpha) が書いてあります. それは, \theta = 0\phi :任意の時であり,

U(\alpha) = \begin{pmatrix}e^{-i\alpha/2} & 0 \\0 & e^{i\alpha/2}  \end{pmatrix} \tag{5}

これを包含する回転行列 U(\theta,\phi;\alpha) を作るのがこの記事です.

望む計算の実行

ここで,一つ準備をします.

\sigma_n^2 = I \tag{6}

つまり, \sigma_n の二乗は単位行列です. 後は,式 (1) の計算を具体的に実行するのみで, 結果は,

U(\theta,\phi;\alpha) &= \exp \left( -\dfrac{i}{2} \bm{\alpha} \cdot \bm{\sigma} \right) \\ &= \exp \left( -\dfrac{i}{2} \alpha \sigma_n \right) \\ &= I -\dfrac{i}{1!} \left( \dfrac{\alpha}{2}\right) \sigma_n -\dfrac{1}{2!} \left( \dfrac{\alpha}{2}\right)^2I + \dfrac{i}{3!} \left( \dfrac{\alpha}{2}\right)^3 \sigma_n \cdots \\&= \cos \left( \dfrac{\alpha}{2} \right)I - i \sin \left( \dfrac{\alpha}{2} \right) \sigma_n \tag{7}

つまり, \theta^\prime,\phi^\prime 方向を向いたスピノール

\chi &= \begin{pmatrix} \cos \dfrac{\theta^\prime}{2} e^{-i\phi^\prime/2} \\ \sin \dfrac{\theta^\prime}{2} e^{i\phi^\prime/2} \end{pmatrix} \\ &= \cos \dfrac{\theta^\prime}{2} e^{-i\phi^\prime/2} | \uparrow \rangle + \sin \dfrac{\theta^\prime}{2} e^{i\phi^\prime/2} | \downarrow \rangle \tag{8}

を回転軸 \theta,\phi として,角度 \alpha だけ回転する時には,回転後のスピノールを \chi^\prime として,次のような計算をします.

\chi^\prime &= U(\theta,\phi;\alpha) \chi \\&= \left( \cos \left( \dfrac{\alpha}{2} \right)I - i \sin \left( \dfrac{\alpha}{2} \right) \sigma_n \right) \chi \\&=\begin{pmatrix} \cos \dfrac{\alpha}{2} -i \sin \dfrac{\alpha}{2} \cos \theta & -i \sin \dfrac{\alpha}{2} \sin \theta e^{-i\phi} \\ -i \sin \dfrac{\alpha}{2} \sin \theta e^{i\phi} & \cos \dfrac{\alpha}{2} +i \sin \dfrac{\alpha}{2} \cos \theta\end{pmatrix}\chi \tag{9}

具体例の計算(EMANさんの結果)

ここできちんとEMANさんの結果,式 (5) と一致することを確認します. それは \theta = 0\phi :任意でしたから,

U(0,\phi;\alpha)&= \left( \cos \left( \dfrac{\alpha}{2} \right)I - i \sin \left( \dfrac{\alpha}{2} \right) \sigma_n \right) \\&=\begin{pmatrix} \cos \dfrac{\alpha}{2} -i \sin \dfrac{\alpha}{2} \cos 0 & -i \sin \dfrac{\alpha}{2} \sin 0 e^{-i\phi} \\ -i \sin \dfrac{\alpha}{2} \sin 0 e^{i\phi} & \cos \dfrac{\alpha}{2} +i \sin \dfrac{\alpha}{2} \cos 0\end{pmatrix} \\&=\begin{pmatrix} e^{-i\alpha/2} & 0 \\ 0 & e^{i\alpha/2}\end{pmatrix} \tag{10}

OKです.一致しました.

具体例の計算(変化しないはずの回転の結果)

また, \sigma_n の固有ベクトル(スピノール)が,上記の \chi で,その固有値は 1 です から, \theta = \theta^\prime かつ \phi = \phi^\prime の時 \chi_1 と書くと, \sigma_n \chi_1 = \chi_1 ですから,

U(\theta,\phi;\alpha) \chi_1 &= \left( \cos \left( \dfrac{\alpha}{2} \right) I - i \sin \left( \dfrac{\alpha}{2} \right) \sigma_n \right) \chi_1 \\&= \left( \cos \dfrac{\alpha}{2} - i \sin \dfrac{\alpha}{2} \right) \chi_1 \\&= e^{-i \alpha /2} \chi_1 \tag{11}

なるほど,回転軸の方を向いたスピノール \chi_1 の回転では, 変化しないはずだと思いましたが,回転角 \alpha の大きさに依存して, 全体の位相が変わっていくようです.

具体例の計算(アダマールゲート)

以前,量子コンピュータ関連の講義を聞いた時に, アダマールゲートというものを習いました. それは,

H &= \dfrac{1}{\sqrt{2}} \begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 1 & -1\end{pmatrix} \tag{12}

であり, \theta=\dfrac{\pi}{4},\phi=0,\alpha=\pi に相当する回転なのだそうです.

では,これは U(\dfrac{\pi}{4},0;\pi) で再現できるでしょうか?

計算してみると,

U(\dfrac{\pi}{4},0;\pi) &= \dfrac{-i}{\sqrt{2}} \begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 1 & -1\end{pmatrix} \tag{13}

全体の位相 -i を除いて一致しました. 実はこれを再現したくて今回の計算を始めたのです.

実際に回転ってどうやるの?

さて,今回はスピンの回転でしたが,実際に回転して見ろと言われても, はて?どうしたものか?と言う方もいらっしゃることと思います. 実は,磁場 \bm{B} を掛けると回転できます.

磁場 \bm{B} とスピン \dfrac{\hbar}{2} \bm{\sigma} の結合を表すハミルトニアン H は, 2×2行列となり,

H &= \dfrac{ge}{m} \dfrac{\hbar}{2} \bm{\sigma} \cdot \bm{B} \\&= \dfrac{g\hbar e}{2 m} \bm{\sigma} \cdot \bm{B} \tag{14}

ここで, g はランデのg因子と言い,およそ大きさが2くらいの無次元数です. 系の時間発展は,波動関数(スピノール)を \chi \to \psi(t) と書き換えて(つまり二行一列の行列),

\psi(t) &= \exp \left( - \dfrac{iHt}{\hbar} \right) \psi(0) \\&= \exp \left( - \dfrac{ige}{2m} \bm{\sigma} \cdot \bm{B} t \right) \psi(0) \\&= \exp \left( - \dfrac{ige|\bm{B}|t}{2m} \sigma_n \right) \psi(0) \tag{15}

(7) の二行目と比較して,

U(\theta,\phi;\alpha) = \exp \left( - \dfrac{i \alpha}{2} \sigma_n \right) \tag{16}

でしたから,一秒間に \alpha = \dfrac{ge|\bm{B}|}{m} ラジアンずつ回転すると分かります. 良く言われることですが \alpha = 2 \pi の回転でスピノールは元に戻らず, 位相因子 e^{-i\pi}=-1 が掛かるのが,式 (13) の二乗の結果からも分かります.

それでは今日はこの辺で.お疲れ様でした.