光電効果2

1900年代初め,アインシュタインは光電効果に関する論文を発表しました. この論文は,のちにアインシュタインがノーベル物理学賞を受賞した,一つの大きな理由になっています. 以下では,光電効果1で見た実験を考察し,より詳しく見ていきましょう.

アインシュタインの光量子仮説

アインシュタインは光電効果を説明するため,以下のような仮説を立てました.

  • 光は,エネルギーを持った粒子(光子)の流れである
  • 光子1個と電子1個が衝突すると,光子の持っていたエネルギーはすべて電子に渡り,光子はなくなる
  • 光子1個が持つエネルギー E は, E=h\nu で表される( h : プランク定数, \nu : 光の振動数)

この仮説をもとに,実験を見ていきましょう.

金属中の電子を考える

金属板に光を当てると,そこにたまっていた電子が飛び出してくることが分かったわけですが, そのことを詳しく見ていく前に,まずは金属中の電子の様子を考えてみましょう.

電子は金属中で, \varepsilon_e というエネルギーを持っているとします.電子の持っている エネルギーはそれぞれ異なります.つまり, \varepsilon_e は個々の電子によって違う値を取るということです.

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電子はどれだけのエネルギーで金属の外へ飛び出せるか

電子は \varepsilon_e というエネルギーを持っていますが,これだけでは金属の外に飛び出すことができません. 金属中に閉じ込められた状態にあるといえます.では,どれだけのエネルギーを受け取れば,金属の外へ 飛び出すことができるのでしょうか.

電子が金属の外に存在していて,運動エネルギーが0の状態に ある時に持っている最低エネルギーを, \varepsilon_v で 表します.つまり,電子のエネルギーが \varepsilon_v に達するようなエネルギーを与えれば,電子は金属の外へ 飛び出すことができるということなのです.金属中に存在している電子にとって \varepsilon_v という エネルギーに達し,その後金属の外へ出て行くということは,大きな壁を乗り越えるようなもので,自然と起こることはありません.

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電子が金属の外へ飛び出すために必要なエネルギー

上述の説明から,電子は \varepsilon_v-\varepsilon_e のエネルギーを受け取れば,金属の外へ 飛び出せることが分かります.しかし,先に述べたように, \varepsilon_e は個々の電子によって 値が異なります.すると, \varepsilon_v-\varepsilon_e の値もまちまちということになり, 議論が進みません.そこで, \varepsilon_v-\varepsilon_e が最小になるような,つまり \varepsilon_e が 最大になるような場合を考えます.この時の \varepsilon_e\varepsilon_F と書くことにします. ここで, W=\varepsilon_v-\varepsilon_F という量を定義しますと,これは,電子が金属の外へ 飛び出すために必要な「最低の」エネルギーになっていることが分かります. この W のことを「仕事関数」と呼んでいます.

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エネルギー保存則を考える

では,光子が金属中の電子と衝突し,金属表面から飛び出してくるという一連の現象について, エネルギー保存則を考えてみましょう.上で仕事関数を定義しましたので,エネルギー \varepsilon_F を 持った電子について考えます.

電子は金属中でエネルギー \varepsilon_F を持って存在していて,そこにエネルギー h\nu を 持った光子がやってきます.光子は持っているエネルギーをすべて電子に渡し,光子自身は消滅します. ここで,電子のエネルギーが \varepsilon_v に達していれば,電子は金属の外へ飛び出してきます. この時,電子の持っている運動エネルギーを K としますと,以下のようなエネルギー保存則が 成り立ちます.

\varepsilon_F+h\nu=\varepsilon_v+K

式を整理して,仕事関数の定義を用いると,

h\nu &= \varepsilon_v-\varepsilon_F+K\\          &= W+K

となります.仕事関数 W は,電子が金属の外へ飛び出すために必要な「最低の」エネルギーと 定義していますので,運動エネルギー K は,「最大の」運動エネルギーということになります. このことを明確にするために, KK_{\rm max} と書くことにしましょう.

h\nu=W+K_{\rm max} \tag{1}

この式を「光電方程式」と呼んでいます.

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補足

この項目は,大学生以上向けの,やや発展的な内容になります.

金属の外が真空であるとする時,そこに存在する運動エネルギーが0の電子の最低のエネルギー準位を 「真空準位」と呼びます.この電子が持つエネルギーが,上述の \varepsilon_v に当たります. また,絶対0度の金属において,電子によって占められている軌道と占められていない軌道を分ける 面のことを「フェルミ面」と呼びます.さらに,この面のエネルギー準位のことを「フェルミ準位」, そのエネルギーのことを「フェルミエネルギー」と呼びます.このフェルミエネルギーが, 上述の \varepsilon_F に当たります.

実験で得られるグラフの考察

式(1)が何を表しているのか,実験で得られるグラフを使って考えてみましょう.

最低の電圧と振動数のグラフ

まずは最低の電圧と振動数のグラフです.グラフは以下のようになっていました. 2つの異なる金属について描かれています.

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金属板に対する電極の電圧が -V_{\rm min}[{\rm V}] の時,飛び出して電極に到達した電子は, 最大の運動エネルギーを持っており, それは eV_{\rm min}[{\rm J}] ということになります.従って, このグラフの縦軸に e を描けたグラフは,式(1)を表していると解釈できます. そのグラフは

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となり,式(1)を変形した

\left(eV_{\rm min}=\right)K_{\rm max}=h\nu-W

という式から,傾きはプランク定数 h ,縦軸の切片は仕事関数にマイナスをつけたもの -W で あることが分かります.このグラフから,ある値以下の振動数の光では電子はまったく飛び出さず, ある値以上の振動数の光では,どんなに弱い光であっても電子が飛び出してくることが分かります. この電子が飛び出してくる最低の振動数 \nu_\mathrm{0A},\nu_\mathrm{0B} を「限界振動数」と呼んでいます.

電圧と電流のグラフ

次に電圧と電流のグラフです.グラフは以下のようになっていました. 金属に当てる光の強さを変えた2つの場合について描かれています.

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より強い光を当てると,電流の最大値がより大きくなることが分かります. 光を強くすると,その分,光子の数が増えることになります.従って,光子と衝突して飛び出してくる 電子の数が増え,電流がたくさん流れるようになると考えることができます.しかし,個々の電子が受け取る エネルギーに変化がないため, -V_{\rm min} の値は変わりません.

限界振動数 \nu_\mathrm{0A},\nu_\mathrm{0B} を求めなさい.

光が波だったら

光電効果1 の最初に,「光電効果は,光が粒子としての性質を持つことを示す現象の一つです」と述べました. では,光が波としての性質だけを持ち,粒子としての性質を持たない場合について,最後に考えてみましょう.

光が波であるとすると,電子は光が当たるたびにエネルギーを吸収すると考えられます. 吸収したエネルギーが大きくなれば,金属から飛び出すことができます. もしそうだとすると,光の振動数に無関係に,エネルギーの大きい(強い)光を当てるか, エネルギーの小さい(弱い)光でも長時間当て続ければ,電子は飛び出せるはずです. しかし,実験の結果はそうではないのですから,光は波としての性質以外に別の性質を持つことが分かるのです.