物理のかぎしっぽ

[3分プレゼン] シュレーディンガー方程式の数値解

home > 量子力学 >

ある授業で「なんでもいいから3分間で発表する」というのがありました. 「なんでもいい」のではじめは日本百名山を発表しようと思ってました. しかし準備するのが大変そうなので,結局卒論の一部を発表しました. せっかくつくった資料なので,ここでも発表します.

実際の発表対称は

でした.プレゼンテーションに使ったのはMS Power Pointです.そのファイルは

に置いておきます.

1.タイトル

シュレーディンガー方程式と数値計算について説明します.

2.シュレーディンガー方程式とは

シュレーディンガー方程式とは何か,を説明するため,古典力学との対応を見てみます. 古典力学では粒子はあくまで粒子であり,波はあくまで波です. その運動は初期条件さえ分かれば完全に予測することができます. それらを記述する基礎方程式が,おなじみの運動方程式です.

対して量子力学と呼ばれる分野では, 全ての物質は粒子であり波であるという不思議な性質をもっています. そしてその運動は確率的にしか予測することができません. これらは実験事実として明らかになっています.

古典力学での運動方程式に対応する基礎方程式が, シュレーディンガー方程式であります.

3.1次元1粒子の場合

複雑な系は難しいので,簡単に,1次元1粒子の系を考えます. この場合,定常状態,時間に依存しないシュレーディンガー方程式は, (スクリーンを指して)このようになります. プサイが波動関数と呼ばれるもの,イーが固有エネルギー, ブイエックスは粒子の受けているポテンシャルです. プサイとイーにエヌが付いているのは,解がいくつもあるということです.

複雑そうに見えるかもしれませんが,要はただの2階常微分方程式です. この方程式から,プサイとイーを求めることが, シュレーディンガー方程式を解くということです.

ポテンシャルが簡単な形をしている場合, シュレーディンガー方程式を解析的に解く,すなわち厳密解を出すことができます. そのようなポテンシャルとしては, 井戸型ポテンシャルや調和振動子型ポテンシャルが代表的です.

4.数値計算が必要な理由

ですが,ポテンシャルが複雑な形をしている場合,解析的に解くことは不可能です. 例として,ダブルモースポテンシャルというものを示します. 分子間のポテンシャルを表すモースポテンシャルが二つ重なったもので, 水素結合系を表すポテンシャルとして用いられます.

このように複雑な形のポテンシャルです. ディー,エー,デルタはパラメータです. こんな形の,複雑なポテンシャル中の粒子の運動を知りたい場合, 数値計算が必要になります.

5.数値計算結果(Proton)

これが,プログラムをつくって数値計算した結果です. このグラフはポテンシャルの右半分だけを表しています.対称なので. 縦軸にエネルギー固有値の値,単位はエレクトロンボルト, 横軸に位置,単位はオングストロームをとっています.

直線がエネルギー固有値です.曲っている線が,波動関数です. 正確には波動関数の絶対値の2乗で,規格化してあります. この曲線が粒子の存在確率を表します.

今の場合,粒子をプロトンとして計算しました. では粒子を変えるとどうなるかというと,

6.数値計算結果(Deuteron)

このようになります.この場合は粒子をデューテロンとして計算しています. 全体にエネルギー準位が下がっています. このように,粒子を変更した場合の計算も簡単にできます. ポテンシャルのパラメータを変更したらどうなるかということも計算できます.

こうして計算した,エネルギー固有値, 粒子の存在確率などの情報をもとに様々な物理量の計算が可能です. たとえば,水素結合を含む結晶のマクロな性質などです. 以上で発表を終わります.

付録

質問されたときのために,付録を用意しておきました. 発表では数値計算について具体的なことをまったくしゃべらなかったので, 付録はすべて数値計算についてです. 式を書いても誰もすぐに理解できないでしょうから,絵だけ準備しました.

感想

実はサクラとして友人に「数値計算のアルゴリズムはなんですか?」と質問するよう, 事前に頼んでおきました.だから意図的に数値計算法の話をしませんでした. 数値計算法の話がまったくないので疑問に思った人が多かったのか, サクラの友人が質問する前に他の人から「数値計算法は何を使いましたか?」との質問を受けました.

わざと発表内容に穴を空けておいて,質問を誘導するものいいテクニックだと感じました. 穴が分かっていれば,質問に答えるときの予備資料をつくるのも,返答を用意しておくのも簡単だからです.

他に質問されたのは,「計算精度はどれくらいか?」ということと, 教授から「それは卒論でやったの?」,「実験値と対応させてみたのか?」 の3点でした.

それにしても,この「3分間のプレゼンテーション」というのは面白いなと思います. 学生による発表なのでみんなしっかりと聞きますし, 3分間で一つのテーマというのは相当がんばってまとめないといけません. だから要約力がつきます. 他の学生の発表も,よくまとめてある興味深いものばかりでした. 今後も,このサイト内の発表として「3分プレゼン」シリーズをつくるかもしれません.

Valid XHTML 1.1! [home] [量子力学] [ページの先頭]