この記事では,3つのスピン1/2粒子の合成を行います.さらに4つのスピン1/2粒子の合成に進みます.
3スピンの合成の前に,少し復習しておきましょう.1つの1/2スピンでは基底が
の様になります.スピン演算子は6種類あり,
です.実は,たくさんありますが独立なものは3つです.,つまり,
という関係があります.これらは演算子ということで状態(基底)に作用します.演算子と基底の関係は,基本的なものから書いて行くと,
この6個の式 [*] が全ての基本です.さらに付け加えておくと,上の(4)〜(6)の関係を利用すると,演算子は
より,
[*] | 独立な3個の演算子に基底が2つなので,この3×2=6個の式で完全に演算子は決定されます. |
式(1),(2)は基底なので,その線形結合がスピンの状態を表します.さらにこれら6個の演算子は線形なので, 2×2の行列で表せて,状態も2×1の行列で表せます.この2×1の行列をスピノールと言います. つまりある状態が, となっている時, これをスピノールで表すと, となります.これと同時に演算子は,
となります.実は一般に,スピンの状態はベクトルの様なものであり,「スピンの大きさ 」と,「スピンのz軸成分 」で決定されます.これを の様に表記します.縮退があることもあるので,インデックスを加えて と書けば,状態は完全に指定されます.1/2スピン粒子の基底状態 は,この表記法で書くなら, , となります.注意をしておくと, というのは,実際には のことであり,さらには, となります.このスピンの大きさの二乗が より大きいことは,もし だったとすると,スピンの大きさとx,y,z成分が全て確定してしまします.これは,「よい量子数」として扱えるのは と だけ,(おそらくは良い量子数は「 と 」または「 と 」でも良いはずです.)ということに矛盾してしまうので,アソビがありまして ではなく, となっています.
次に,二つの1/2スピンの理論に移りましょう.基底状態は,2通りの流儀があり,
という二つのスピンを並べた表記法Aと
それらをまとめて書く表記法Bです.これらは異なる基底でありますが,同じ空間を貼ります.これらの関係を求めるのには,下降演算子 ,上昇演算子 を用います.
を用います.ここで右辺の添え字1,2は一番目のスピンに作用するか,二番目のスピンに作用するか,を表しています.左辺は表記法Bに作用し,右辺は表記法Aに作用します.まずは表記法Bで,それらの作用を列挙すると,
となります.これはスピンのz成分が1だけ増減したものを求める演算子です.これにまた表記法Aでは例えば は一番目のスピンのみに依存して,
式(12),(13)と比較してください.この演算子 については,二つ目のスピンがあってもなくても同じなのです. も同様に二番目のスピンのみに作用します.二つの表記法がなぜ大切かと言うと,実は最高スピン(もしくは最低スピン)状態については,
の様に簡単な関係があります.これに下降演算子(もしくは上昇演算子)をかけていくことにより,表記法A,B間の関係が求まるのです.実際にやってみましょう.
よって,この計算により,
が求まります.さらに,これに下降演算子を掛けることで,
も求まります.さて,基本は分かって頂けたかと思います.しかし,2つのスピンの合成の基底は4つでした.良く見てみると式(33),つまり,ゼロスピン状態が下降演算子を掛けるだけでは得られません.
分かることは,スピンの大きさが0なので,スピンのz成分も0となります.よって,定数 を用いて と書けます.そこで,直交関係を用います.基本的な内積として,
ここで はクロネッカーのデルタです.つまり,全ての量子数が同じならその内積は1となり,一つでも異なるなら,0となります.この関係を用いて
私もよく分かっていないのですが,どうやら の位相は自由に選べるようです.ここでは実数として考えます.すると,
が求まります.これですべての基底の関係が求まりました.のちの為,行列表示で同じことを考えられるということを示しておきましょう.行列表示では,列ベクトルを考えて,
という順に係数を対応させていきます.例えば,式(42),(45),(46),(49)を行列で書いておきます.
そして,スピン演算子は4×4行列となり,粒子1に作用する 演算子を などと書けば,
となります.ここで,交換関係 より, と は同時対角化可能です.それを対角化したものが,表記法Bなのです.実際,式(51)〜(54)より,
とすると,
となります.基底の変換後は,式(50)のように書くなら,
の様になります.つまり,スピンの合成とは, を対角化する表示を求めることと言うことになります.
これからは主に行列で考えることにします.基本はいままでお話した通りなので,サクサク行きます.
3つのスピンに対しては,基底は8つで,
となります.
ここで注意しておくと を求める時に,行列の区分けを使うと便利です.2n×2n行列 をそれぞれn×n行列 の集合体とすると,
が成立します.これに気付くとだいぶ計算が楽になるはずです.さて,式(74)を対角化しましょう!余談ですが,
のように(全スピンの和を3/2,1/2,-1/2,-3/2の降順にして)基底を入れ替えると,
の様に高々3×3行列の対角化で済むことが分かります.まあ,今回はあとでどう基底を取り換えたか,分からなくなるのが嫌なので,直接,式(70)の順番で対角化します.すぐわかるのは, の です.
それらは順番に,
そして,式(79),(80)に直交するベクトルを求めます.すると, と はそれぞれ二重に縮退していることが分かり,全部で の状態は4つ有ります.よって,それをインデックス で区別します.
さて,いよいよ1/2スピンが4つの時を考えてみましょう.それぞれの演算子は次のようになります.
最後は分かりづらいでしょうか.並べ替えると,
となっています.実は,式(52)は
とも書けます.この流儀の方がこの場合,分かり易いと思うので,こっちで書こうと思います.今まで同様に下降演算子 を演算します.すると,
となります.式(96)に直交するものとして,(注意:矢印を1/2,-1/2として4つ足したものが1になるもののうちで,つまり,S=1ということ)
下降演算子を掛けて,
となり,さらに,
最後に,2つの縮退したゼロスピンは,2粒子のゼロスピンの積となり,
もう一つのゼロスピンは,上式は1番目2番目,3番目4番目のまとまりだったので,今度は14,23のまとまりで積を作り,(13,24は両者の和で出てくるので,基底ではありません.)
以上で,16個の基底が全て求まりました.疲れましたね.今日は,これまで.お疲れ様でした!
追記:最後の4粒子の合成の スピン状態ですが,このままでは直交化されていません.
とすれば解決です!!