C言語のポインタについて前橋さんの詳しい解説がありますが[2], Cの開発環境 があれば,手持ちの教科書・参考書を参照しながらテストプログラムを作ること により,自分で疑問点を調べることができます.以下の例を変更していろいろ 試みてください.本文に誤りがあったとき自信を持って訂正できます.
まず次の例を考えましょう.結果が予想できない人は実際にプログラムを 作って実行してください.
例1. 次のプログラムの出力は「 1, 4 」.
#include <stdio.h> int main(void) { int n[3]={4, 5, 6}, *p=n; printf("%d, %d\n", p==&n[0], *p); return 0; }
問1. 例1の n, p について
例1で実在する変数は n[0], n[1], n[2], p のみですが,「 p=n; 」によって n[i] の代わりに p[i] を使うことができます.一般に
p[i]==*(p+i), &p[i]==p+i
したがって p==&p[0],*p==p[0] であり,「 p=n+1; 」とすると
p[-1]==n[0], p[0]==n[1], p[1]==n[2]
となります.Cで「 &p[i]==p+i 」と定めたのは「 p+=sizeof(int); 」の代わりに 「 p++; 」を使いたいためであると思われます.『アドレス+整数』と 『アドレス"アドレス』は次元(?)が違うので &n[1]-&n[0]==sizeof(int) と定めることもできますが [*] , &n[1]!=&n[0]+(&n[1]-&n[0]) となるので, Cの言語仕様はそうなっていません.実際
#include <stdio.h> int main(void) { int n[3], k0=&n[0], k1=&n[1]; printf("%d, %d\n", k1-k0, &n[1]-&n[0]); return 0; }
を実行すると, k1-k0==sizeof(int), &n[1]-&n[0]==1,2*(&n[1]-&n[0])==2 と なります.「 k0=&n[0]; 」は警告が出るかもしれませんが,無意味な代入では ないのでエラーにはなりません.
[*] | Cの表現における &n[1]==n+1 && &n[1][2]!=(n+1)+2 等の不自然な式が なくなります.どう定めても複雑な式には歪が伴います. |
プログラム例を示す前に「 int n[2][2],*p[2],(*q)[][2]; 」で宣言される n, p, q について説明します.Cの記法ではありませんが
「int n[2][2];」「int *p[2];」「int (*q)[][2];」 『int[2] n[2]; 』『int* p[2]; 』『int[2][] *q; 』 『int[2][2] n; 』『int*[2] p; 』『int[2][]* q; 』
と書き換えることにより, n は整数の2次元配列,p は整数へのポインタの 1次元配列,q は整数の2次元配列へのポインタであることが分かりやすく なります.なお,「 int m[2][3][4]; 」と宣言されているとき,
&m[i][j][k]-&m[0][0][0]==4*(3*i+j)+k
であることは
for(i=0; i<2; i++)for(j=0; j<3; j++)for(k=0; k<4; k++){ printf("%d,", &m[i][j][k]-&m[0][0][0]); }
を実行することで確認できます.また &m[i][j][k] に対して
m[i][j]+k==&m[i][j][k], m[i]==m[i][0], m==m[0]
と定められています.ただし, k が 0 でないとき m[i][0] に m[i] を代入 できません. m[0] と m についても同様です.
例2. 次のプログラムの出力は「 5, 7 」.
#include <stdio.h> int main(void) { int n[2][2]={{4, 5}, {6, 7}}, *p[2], (*q)[][2]; q=p[1]=&n[0][1]; printf("%d, %d\n", p[1][0], (*q)[1][0]); return 0; }
問2. 例2の n, p, q について
以下では簡単のため「 A==B && B==C && C==D 」を『 A == B == C == D 』 のように略記します.例2のプログラムでは p[1]==&n[0][1] ですから,
『 p[1][0] == *p[1] == *(&n[0][1]) == n[0][1] == 5 』
です. q の方は初期値 &n[0][1] を用いて
(*q)[0][0]==*(&n[0][1]), (*q)[1][0]==*(&n[0][1]+2*1+0)
と解釈され, **(*q) == n[0][1], (*q)[1][0] == n[1][1] となります. 『 q == *q == **q == &n[0][1] 』であることは分かり難いのですが, 「 (*q)[i][j]==q[0][i][j] 」であり「 int m[2][3][4]; 」のときの
『 m == *m == **m == &m[0][0][0], ***m == m[0][0][0] 』
と類似の関係になっています.なお n[1] はアドレスであって(ポインタ とは異なり)メモリ上に領域が与えられていないので,値を代入することは できません.
n 『n[0][0]=4;』『n[0][1]=5;』『n[1][0]=6;』『n[1][1]=7;』 p 『p[0] 』『p[1]=(※);』 &q 『q=p[1]; 』 (※)==&n[0][1], (*q)[0][0]==*p[1], (*q)[0][1]==*(p[1]+1)
Cには string 型がないため,文字列は先頭をアドレス,末尾を制御文字 '\0' で表わします.例えば,宣言「 char s[]="ABC"; 」は
char s[4]={'A', 'B', 'C', '\0'};
を略記したもので,先頭のアドレスが s で s[3]=='\0' になっています. 「 char *p="ABC"; 」という宣言は少し分かりにくいのですが,適当な場所に "ABC" を格納する配列をつくり,その先頭アドレスを p に設定します. Cでは文字列の評価値は先頭アドレスなので,初期状態では p=="ABC", *p=='A' です.
例3. 次のプログラムの出力は「 B, DE 」.
#include <stdio.h> int main(void) { char s[2][8]={"ABC", "DE"}, (*p)[8]=s; printf("%c, %s\n", p[0][1], p[1]); return 0; }
問3. 例3の s, p について
「 char (*p)[8]=s; 」で p に設定されるのは s です. p は『 char[8] 』への ポインタなので p[i]==s[i], p[i][j]==s[i][j] が成立し, p[0][1]=='B',p[1]==s[1] です.また
(*p)[2]==p[0][2], *p+1==p[0]+1, *(p[0]+1)==p[0][1]
ですから, (*p)[2]=='C', *(*p+1)=='B' です.「 char (*q)[4]=s; 」と 宣言された q では q[1][0]==s[0][4], q[2][0]==s[1][0] です.
Cでは(値呼びしかできないため)関数の引数にポインタが多用されます. ポインタ p が配列と関係なければ単に *p と表わせばいいので,ここでは 直接あるいは間接に配列を指すポインタについて考えます.実引数としたい 配列と型を合わせたいときは
int n1[4]; --> (int p1[]) または (int *p1) int n2[4][5]; --> (int p2[][5]) int n3[4][5][6]; --> (int p3[][5][6]) int *m1[4]; --> (int *q1[]) または (int **q1) int *m2[4][5]; --> (int *q2[][5])
のように宣言します, p1, p2, p3, q1, q2 がすべて配列ではなくポインタ であることは,関数内で sizeof(p1) 等を printf() で表示することによって 確認できます.
例4. 次のプログラムの出力は「 B, D 」.
#include <stdio.h> void check(char p2[][8], char *q1[]) { printf("%c, %c\n", p2[0][1], *q1[1]); } int main(void) { char s[2][8]={"ABC", "DE"}, *r[2]; r[0]=s[0]; r[1]=s[1]; check(s, r); return 0; }
問4. 例4の p, q について
仮引数の宣言の [] を [N] ( N は適当な定数)で置換した大域変数や局所 変数の宣言を考えると,配列要素のアドレスの計算に N は不要であることが 分かります.「 char s[2][8]; 」のとき &s[i][j]-&s[0][0]==8*i+j ですが, 仮引数の宣言「 int p2[][8] 」でも同様に
&p2[i][j]-&p2[0][0]==8*i+j
です.したがって p2[0][1]==s[0][1] となります.また「 char *r[2]; 」の r[i] は実在するポインタ,「 char *q1[] 」の q1[i] は計算したアドレス ですが,
q1[i]==*(q1+i), q[i][j]==*(q1[i]+j)
なので, q1==r であれば q1[i][j]==r[i][j] が成立します.このとき *q1[1]==r[1][0], **q1==r[0][0], q1[1][2]='\0' です.宣言として 「 char *q1[] 」の代わりに「 char **q1 」を用いても同じですが,局所変数に 対しては「 char **q; 」を「 char *q[]; 」のように宣言することはできません.
なお,必ずしも実引数と仮引数の型を合わせるのがよいとは限りません. 一例を次に示します.
#include <stdio.h> extern int sum, n[10][10][10]; void add(int k, int *p) { while(k>0){sum+=*p; p++; k--;} } int main(void) { sum=0; add(1000, n); printf("sum=%d\n", sum); return 0; }
構造体のメンバ x.m は p==&x であるポインタを用いて p->m で参照でき ます.このことに詳しくない人は,まず構造体の基礎を学んでください.
例5. 次のプログラムの出力は「 ADC 」.
typedef struct{char s[8], *p;} str2; void main_5(void) { str2 x[2]={{"ABC"}, {"DE"}}, *q=x+1; x[0].p=x[1].s; x[1].p=x[0].s; x[0].s[1]=q->s[0]; printf("%s\n", x[0].s); }
問5. 例5の x, p について
「 x[1].p=x[0].s; 」実行後に x[0].s[i] を書き換えても x[1].p[i] も 変わるので, q->p[1]=='D' です.
ポインタについて考えるときに留意すべき点は,ポインタが参照するデータ の構造はポインタの宣言のみで決まるということです.例えば
int n[2][3], *p=&n[0][1];
と宣言されていれば,『 (int*) p=&n[0][1]; 』なので
p[-1]==n[0][0], *p==n[0][1], p[1]==n[0][2]
となります.つまり p から見れば p[i] は n に関係なく p+i にある データ *(p+i) に過ぎないのです.細かい補足は以下に列挙します.
[†] | 自分の処理系での数値だけに着目し,[3]のような難しい説明は気にしないことにしましょう. |
「 int n[][2]={4, 5, 6}; 」は「 int n[2][2]={{4, 5}, {6, 0}}; 」 として扱われます.「 int p[]; 」や「 int p[][2]; 」をポインタの宣言に 使えないのはのは,このことが関係しているものと思われます.配列要素を 参照するときは (*p)[i][j] より p[0][i][j] の方が分かりやすいでしょう. 参照先によっては p[k][i][j] も使えます.
「 char *p; 」は「 char* p; 」と同じですが,「 char* p, q; 」は 「 char *p, q; 」として処理されます.「 char* p; 」「 char* q; 」を まとめるには「 typedef char *cptr; cptr p, q; 」のようにします.
Cのバイブル[1]に複雑な宣言の例として「 char (*(*x[3])())[5]; 」 が挙げられていますが,これを:
「char (*(*x[3])())[5];」 『char[5] *(*x[3])(); 』 『char[5]* (*x[3])(); 』 『()(char[5]*) *x[3]; 』 『(()(char[5]*))* x[3]; 』 『(()(char[5]*))*[3] x; 』
と変形すると, x が「 array [3] of pointer to function returning pointer to array [5] of char 」であることが少し分かりやすくなるかも 知れません(すぐれた教育用言語である Pascal での表現に近づきます).
自分でプログラムを書くときは,なるべく素直な表現を使いましょう. scanf() で 変数 x[i][j] にデータを入力するとき, &x[i][j] の方が x[i]+j より素直です.ポインタの更新も独立した文で行いましょう. 言語仕様からいえば「 printf("%p, %d\n", p++, *p); 」の結果は処理系 に依存します.