万有引力の発見

力学の,物理学誕生の歴史もいよいよ佳境に入ってきました.アイザック・ニュートン,数々の自然法則を発見し,ニュートン力学を打ち立て,そしてその法則の記述に必要な微分・積分学の基礎をもつくりあげた彼は,ガリレオがこの世をさった1642年にイギリスのリンカシャーに生を受けています.数学を物理学に投入し自然科学研究の様相を一変させたニュートンの名は,記号 N として力の単位に用いられ,現在も物理学の中に生きています.

今回は彼の輝かしい業績の一つ,万有引力の発見についてです.まず,彼の生きていた時代以前では力というものを,どのように扱えばいいかが確立されていませんでした.現代のように数値で測定したり,数式を解いて数値として予測する考えがありませんでした.そういった時代に万有引力という力の法則を確立したニュートンの行動は,まさに画期的であるといえます.また,ニュートン万有引力を発見したのとほぼ同時期に,バネで有名なフックの法則をイギリスの物理学者フックが発表しています.彼らの活躍したこの時期に,数式による力の扱いが確固たるものになっています.


さて,本題の万有引力です.万有引力とはその名の通り,万物が有する引力のことです.世の中のすべての物質は互いに引き合う引力をもっています.ニュートンはリンゴを落ちるのを見て,リンゴが落ちるのは地球の引力に引かれたからだという着想を得たといわれています.そしてその引力はリンゴだけでなく,遥か彼方の月にも,太陽にも及んでいると.

天体の運動はティコブラーエ,ケプラーによってその法則が解き明かされていました.しかしケプラーの法則は3つもあり,その法則は自然界の根本原理とするにはやや複雑なものでした.ニュートンの考えた万有引力,その法則が正しく,より根本的な法則であるならばケプラーの3法則がすべて万有引力から導かれるはずです.


ニュートンはケプラーの3法則を詳しく分析し,万有引力をどうやって数式化すべきか考えました.その結果,2つの物体間に働く力がたった2つの量で決定されるという考えにたどり着いています.それは物質の質量と,物体間の距離です. 2つの物体間に働く引力の強さは,質量が大きければ大きく,距離が小さければ大きいのです.

ニュートンはこの定性的な記述をさらに押し進め, 2つの物体間に働く引力の強さを量的に記述する方程式を書いています.その方程式によれば,2つの物体間に働く引力は物体の質量の積に比例し,距離の2乗に反比例します.いわゆる逆2乗則です.この万有引力の法則により,ケプラーの3法則を導くことにも成功しました.それはつまり,ティコの精密な観測結果を予測することのできる,より簡潔で根本的な法則の発見を意味します.

そしてまた,リンゴが地球の引力に引かれるように,地上の物体の運動を予測することをも可能にします.予測と実際に観測される運動との一致はめざましく,この成功によってニュートンの理論は20世紀はじめまで揺るぎない支持を得ていました.万有引力の発見から約200年後,ニュートンの重力(万有引力)理論とアインシュタインにより発見された特殊相対性理論との間に,避けようのない衝突が起こりました.これにより,万有引力の法則は一般相対性理論という新たな重力の理論へと進化をとげましたが,それはまた別のお話です.