質点の力学ではすべての運動はニュートンの運動の3法則で計算できると説明されていますが, 剛体の力学ではある点の回りのモーメントの計算が必要になります. そのためには,まずモーメントの計算では力が束縛ベクトルである(大きさと向きが同じでも 作用点によって働きが異なる)ことを再認識しなければなりません. ここでは,作用点を明示した束縛ベクトルの表現と計算例を示します.
簡単な例として,質量 ,
の質点を軽い棒でつないだ下図の剛体を考えます.
,
はそれぞれ質量
の質点に働く外力,質量
の質点から
質量
の質点に働く内力です.
2質点をつないだ剛体
質量 ,
の質点の位置ベクトルをそれぞれ
,
とすると,内力は
という性質をもっているので,運動方程式
から
という内力を含まない式が得られ,この微分方程式を解くことによって ,
を求めることができます [*] .剛体の運動を考えるときモーメントを計算するのは,
前記の
という制約によるものです.
[*] | 重心 ![]() ![]() ![]() |
この剛体に働く力がつり合っているということは ,
であることを意味します.
このことから,
が
つり合っているとき,すなわち
であるとき, と
は
等価であると定義します.ここで
は
の作用点の位置ベクトルを
表しています.このとき,任意の
について
となることを確認してください.
を作用点とする力
を
と表しても,
通常は
は
と
の大きさと向きが等しいと解釈されます.このため,
新しい記号
を用いて
の意味を
で定義します.この定義からただちに ならば
(力はその作用線上を移動しても働きは変わらない)
という性質が導かれます [†] .
[†] | ![]() ![]() ![]() |
与えられた ,
に対して
となる が存在するとき,
を
,
の合力といいます.
,
が
同一平面上にあれば,
,
の場合を除いて,合力が存在します.
,
のとき,
,
の合力は存在しません.このような力の組
,
を偶力といい,以下では
を
と略記します.
偶力のモーメントが自由ベクトルであること,すなわち任意の について
が成立することや,偶力 と
偶力
のモーメントが等しいこと等が
容易に確かめられます.
,
が同一平面上になければ
これらの合力は存在しませんが,任意の
について
が成立するように ,
,
を選ぶことができます.
の等価変換
例えば, を
と変形して加算した式
の右辺第2項は偶力の和ですから,自由ベクトルであるこれらのモーメントの和
は容易に計算でき, を満足する
,
が求められます [§] .
[§] | ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
上式で が任意の点でよかったことを思い出すと,多数の3次元ベクトル
についても
となる ,
,
が存在することが分かります.
ですから,密度が一様で,点
に関して対称な剛体に働く重力は,重心を
作用点とし,大きさと向きが力の総和に等しい力と等価であることが分かります.
例えば,両端が ,
にある質量
の棒に働く重力は,棒を
個の微小領域に等分して点対称な位置にある微小領域の対を考えると,各対の合力の
作用点はすべて棒の中心になり,これらの合力の総和が棒に働く重力と等しくなります.
剛体が固定点の回りを運動しているとき,通常は固定点回りの角運動量の時間微分が
固定点回りの外力のモーメントの総和に等しいとして運動方程式を解きます.この場合,
固定点に働いている力を計算する必要はありませんが,上記の説明と関連付けるために
固定点 に働く力が
, その他の外力(重力は重心に集中
しているとして扱います)が
である場合
について考えましょう.
この剛体に働く力は
と等価ですから, とおくと
回りの角運動量を求める
方程式から
が消えてしまいます.つまり,
を求める必要がなければ
運動量を求める方程式は考えなくてよいのです.
「二つの力の合力」では,数値例に ,
のような表現を用いました.この点について
補足します.
通常,物理量を表す文字は単位を含んでいます.例えば,速さ で時間
だけ
移動したときの移動距離は
であるといったとき,
や
の単位は自由に選べます.
,
ならば
です.
なお,速さ
で
間移動したときの移動距離は
ではなく
です [¶] .上記の
のような数値例は
のような表現より分かりやすいと思います.
[¶] | ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
ここで述べた内容はすべて私が学生のときに学んだ教科書[1](古書,ISBNなし)に書かれて います.既知の事柄を珍奇な記号を使って書き換えただけだと感じた方が多いと思いますが, モデリング,記法,プログラミング等に関心のある高校生・大学生諸君のために所属学会の 研究会で発表した内容を補足し,数値例も付け加えて紹介しました.教科書・参考書を超えて 自分でいろいろ工夫してほしいというのが筆者の願いです.