なぜ子供は転びやすいのか

剛体の力学シリーズ番外編1です. 小さい子がよく転ぶのをみて考えてみました. 大人になるとつまづいても転びにくくなりますよね. それはなぜかに答えます. 必要知識は, 慣性モーメント あたりまでの知識をもっていることが望ましいです.

転ぶ人を倒れる棒として考える

題のとおりです. 転ぶ人を倒れる棒として考えます. 長さが違う棒を倒すとき, 長いほど遅く倒れるのだろうと予想しました. 実際に確かめてみましょう.

モデルは,一方を自由に回転できように固定した, 密度が一様な質量 m ,長さ l 棒とします. 固定されているのは,摩擦力のせいです. 棒の慣性モーメントを I ,地面の法線と棒のなす角を \theta とします.

回転運動の方程式は,

\frac{dL}{dt}=N

つまり,もっと詳しく書くと L=I \dot{\theta}(=I \omega) (上のドットは時間微分)ですから,

I \ddot{\theta} =N \tag{1}

となる訳です.

まず, I を計算します. \rho=\frac{m}{l} を棒の密度とすれば,

I &= \int_0^l \rho r^2 dr \\&= [ \frac{\rho r^3}{3} ]_0^l \\&=\frac{\rho l^3}{3} \\&= \frac{ml^2}{3} \tag{2}

ですね.

そして,剛体に働くトルクの合計 N を求めます. 棒の固定端から, r の距離にある微小質量 \rho dr にかかる重力による微小トルク dN= r (\rho dr)g \sin \theta を積分します.

N &= \int dN \\&= \int_0^l r (\rho dr) g \sin \theta \\&= [\frac{\rho g r^2 \sin \theta}{2}]_0^l \\&= \frac{mgl \sin \theta}{2} \tag{3}

では,準備ができたので,式 ( 2 ) と式 ( 3 ) を式 ( 1 ) に代入して整理してみましょう.

\frac{ml^2}{3} \ddot{\theta} = \frac{mgl}{2} \sin \theta
\ddot{\theta} = \frac{3g}{2l} \sin \theta \tag{4}

( 4 ) を見ると,見事に回転の加速の速さは, 質量に関係せず,短いほど速いことがわかります.

または言い方を変えると, 棒の端点の動く速度の速度増加率は,両辺に l をかければ出てきて, 棒の長さによらないことが分ります.速度は同じであって, 一方,端点の描く軌跡は,棒が長いほど長いですから, 倒れるまでの時間は,長くなるわけです.

よって,体重には関係なく背が高いほど転び方がゆっくりになるので, 大人はつまずいても姿勢を戻せるわけですね.

前に,ティラノサウルスは転んだらその衝撃で,死んでしまうのではないかという仮説が 聞きましたが,それだけ大きければそうとう転ぶまでに時間がかかるので, 転びにくかったのではないでしょうか.

以上,小ネタでした.