ベクトルのモーメント(トルクと角運動量)

剛体の回転シーリズ第1弾です. 次の記事は, 角運動量 です.

ベクトルのモーメント

ベクトルは大きさと方向を持つ量ですが,もともと数学ではあまりその始点(どこから ベクトルを引くか)を区別することはありません.しかし物理では,同じベクトルでも その始点によって違う意味を持ったものになることがあります.例えば,物体に同じベクトル で表される力を加える場合でも,どこを押すかによって物体の動きが変わってくることは, 容易にイメージできるのではないでしょうか.

ここで,ベクトルのモーメント [*] について説明します.下の図のように,原点を ,点 O とし,位置ベクトル \bm{r} で表される点 P に,ベクトル \bm{A} があるとします.

chromel-moment-01-t.png
[*]モーメントというと,さまざまな亜種があります.力学では,モーメント(力のモーメント,トルクとも),角運動量(運動量のモーメント),慣性モーメント等があります.電磁気学では,双極子モーメント,磁気モーメント等.材料力学なんかでは,断面一次モーメント,断面二次モーメントなんていうのもあります.どれにも共通して言えるのは,ある強度と始点を問題とする位置の積で表され,採る座標系に依存している量のことのようです.

このとき, O の周りのモーメントとは,

\bm{M} = \bm{r} \times \bm{A}

で表されるベクトル \bm{M} のことです.

外積を知らない人のために少し説明しますと, このベクトルは, \bm{r} \bm{A} を含む平面に垂直で,大きさ が |\bm{r}| \  |\bm{A}| \sin \theta のベクトルです.

成分としては, \bm{r} の成分を (x,\ y,\ z) \bm{A} の成分 を (A_x, \ A_y, \ A_z) とした時,

M_x=yA_z- zA_y, \ \ \ M_y =zA_x -xA_z, \ \ \  M_z=xA_y-yA_x

完全反対称テンソル (レヴィ・チヴィタの記号とも)を用いると,簡潔に,

M_i=\varepsilon_{ijk}x_jA_k \ \ \ \ \ (i=1,2,3)

と書けます.ここで同じ添字を並べて書いたときには,すべての和をとると いうアインシュタインの縮約規則 [†] を用いています.

[†]例えば A_i B_i と書いたら, A_1B_1+A_2B_2+A_3B_3 を表します.

トルクと角運動量

特に力学では,このベクトルのモーメントの中でも重要なものとして, トルク \bm{N} と,角運動量 \bm{L} があります.物体にかかる力 \bm{F} としてトルクは,

\bm{N} = \bm{r} \times \bm{F}

となり,角運動量は運動量 \bm{p}= m\bm{v} として,

\bm{L} = \bm{r} \times \bm{p}

で表されます.

平行軸の定理

モーメントは,どの点のまわりのモーメントを考えるかによって,変わってくるものです. そこで最後に変換公式を書いて,終わりにします. O から見た点 P をベクトル \bm{r} O^\prime から 見た点 P をベクトル \bm{r}^\prime で 表し, O から見た O' は,ベクトル \bm{R} とします.

chromel-moment-02-t.png

このとき, O から見たモーメント \bm{M}_O と , O^\prime から見たモーメント \bm{M}_{O^\prime} の間に次の関係が 成り立ちます.

\bm{r} = \bm{r}^\prime + \bm{R}

より,

\bm{r} \times \bm{A} = \bm{r}^\prime \times \bm{A} + \bm{R} \times \bm{A}

よって,

\bm{M}_{O} = \bm{M}_{O^\prime} + \bm{R} \times \bm{A}

が成立します. このように,ある点でのモーメントが分かれば,別の点でのモーメントを知ることができます.

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