質量と重さ

「質量」と「重さ」,この二つの言葉はよく似ていますが,これらは決定的に意味が違います. 日常生活と物理で使う用語は違うのです.ハッキリ理解しておかないと,後々の混乱につながりますから, ここできちんと理解しておきましょう.簡潔に言うと

となります.「質量」とは質量である,など変な説明(というか説明になってない)ですが, 他に言葉が思い浮かびませんでした.もう少しだけ,説明を続けます.

質量

質量とは,物質そのものがもっている値です.物理学として物事を扱う場合の,最も基礎的な量の一つです. 物理の問題を解くときには大抵の場合,質量という量を考えなければなりません. 運動方程式そのものにも含まれている,たいへん基本的な量です.

質量とはそもそもなにか,ということを考えてしまうと,意味が分からなくなってしまいます. 僕たちはなぜ生きているのか,のような根本的な問題だからです. 物質には質量というものがある,と考えるしかありません. これと似たような量に,例えば電磁気学の「電荷」があります.

重さ

対して,重さとは「力」のことですから,物質そのものがもっている値とは言えません. 地球で計ったのと月で計ったのでは重さが変わる,という表現はよく目にします. 重さとは場合場合によって変化する量なのです.

重さは力です.その力の源とはなにかというと,万有引力です. 世の中の物は万有引力によって力を受けます.万有引力を受けたことによって発生した力が,「重さ」なのです. こういった力を考えるとき,物理では「場」という概念が登場します. まず質量があれば重力場というものがつくられ,その重力場に別の質量が入ってくると, 質量は重力場から力を受ける,と考えるのです.私たちは普段,地球質量のつくる重力場の中で生活しています.

何かの重さを計るとき,例えば体重を計るには体重計に乗ります. すると体重計は身体の質量に応じた力を受けます. 体重計の中にはバネが仕込んであり,バネの受ける力に比例して目盛りが動くようになっています. バネの力というのは(弾性限内では)フックの法則(という線形の関係)に従いますから, うまいこと目盛を設定してやると「重さという力」から「質量」を計れるという仕組みになっています.

しかし地球上と言えども,場所によって重力場の微妙に異なります. 高いところに登れば重力場の大きさは小さくなります. だから同じ体重計を使って同じ物を計っても,場所によっては違う値になります.

また,月の重力場は地球のものよりずっと小さい(約6分の1)ので, 月面上では体重計の示す目盛りは,地上よりずっと小さいでしょう.

慣性質量と重力質量

万有引力によって確かめられる質量を「重力質量」, 運動方程式によって確かめられる質量を「慣性質量」と呼ぶことがあります. 同じ「質量」という名前が付いていますが,原理的にはこれら二つが同じである保証はありません. 重力質量は万有引力の大きさを決める量であり,一方,慣性質量は物体の加速しやすさを決める量です. だからこれら二つは本質的に別の概念なのです. しかし両者の値は,これまでの実験精度の範囲内で完全に一致することが分かっています.