線形性の概要1

多くの力学系は線形モデルによってまとめられています.このために少々の高等な数学を用いられる事も しばしばあります.こんな時,余計に問題が難しくなったと感じられるかもしれませんがそれは違います. それは解析的に解く事ができる多くの場合は線形の場合に限られるからです.実際,線形性を意識するとさまざまな数学的 操作の意図が見えてくる事は少なくありません.以上のことから分かるように,物理学において線形性という概念は いつも重要な位置を占めてきました.

線形作用

まず,ここでは演算についての一般的な線形性の定義を示しておきます.これは単なる定義なのでそれ以上の意味は ありません.線形作用というと難しく感じるかもしれませんが線形性を持った演算を作用させる事 を意味します.線形作用させるものを物理では線形演算子と言い,線形作用には一般に次のことが言えます. 演算子を f ,作用される対象を A,B とすると

f[A+B] &= f[A]+f[B]\tag{1}\\f[cA]&=cf[A]\tag{2}

という関係式が成り立ちます. c:任意定数

線形結合

次に線形結合という線形作用に特有の便利な性質を示しておきます.数式で表すと

C&=c_{1}S+c_{2}T\tag{3}

となります. c_1 :任意定数 c_2 :任意定数 C,S,T :線形作用を受けた対象

このとき CST の線形結合と言います.

証明

線形結合の関係が成り立つ事を線形作用の性質のみを用いて証明しようと思います. まず C,S,T を次のように定義します.

C&=f[c_{1}P+c_{2}Q]\\S&=f[P]\\T&=f[Q]\tag{4}

次に(1)式に A &= c_1{P} , B &= c_2{Q} を代入すると

f[c_1P+c_2Q]&= f[c_1{P}] + f[c_2{Q}]\tag{5}

が成り立つ事が分かります.また,(2)式から

f[c_{1}P]&=c_{1}f[P]\\f[c_{2}Q]&=c_{2}f[Q]\tag{6}

が得られるので(5)式に(6)式に代入すると

f[c_{1}P+c_{2}Q]&=c_{1}f[P]+c_{2}f[Q]\tag{7}

が成り立つことが分かります.(4)式の定義を(7)式にそれぞれ代入する事によって(3)式が成り立つ事が示されます.