フーリエ変換の第一歩

ここでは,フーリエ変換のとはどんなことをしているのを考えていきます.まずは定義から見て,じっくりとその意味を探っていきましょう.また,この記事中では式の簡易さから,大学の教科書等で記載されているものとは,少し違う形の関数で主に考えていきますが議論の本質は変わりません.

フーリエ変換の定義

フーリエ変換とは,時間や空間座標が変数の関数を周波数が変数の関数に変換することであり,以下の式で与えられます.

H(f)=\int^{\infty}_{-\infty}h(t)\exp(-i2\pi f t)dt\tag{1}

ここで,上の積分を フーリエ積分 といい, H((f)h(t)フーリエ変換 といいます. t は時間や空間座標, f は周波数を表しています.また,もし「変換」が存在すれば,なんとなくその逆も存在しそうですね.はい.存在します.上のフーリエ変換に対応するフーリエ逆変換は以下のように与えられます.

h(t)=\int^{\infty}_{-\infty}H(f)\exp(i2\pi f t)df \tag{2}

そして,これら二つをセットにして フーリエ変換対 といいます.

大学の参考書や専門書等では,フーリエ変換の変数は周波数ではなく,角周波数 \omega を変数にした形で紹介されているものが多いです.つまり,それらの書籍では f\to \omega=2\pi f を式(1),(2)に代入した形になっています.その場合,フーリエ変換・フーリエ逆変換の定義は主に以下の二通りになります.

H(\omega) &= \int^{\infty}_{-\infty}h(t)\exp(-i\omega t)dt \tag{3-1}\\ h(t) &= \frac{1}{2\pi}\int^{\infty}_{-\infty}H(\omega)\exp(i\omega t)d\omega \tag{3-2}
H(\omega) &= \frac{1}{\sqrt{2\pi}}\int^{\infty}_{-\infty}h(t)\exp(-i\omega t)dt \tag{4-1}\\ h(t) &= \frac{1}{\sqrt{2\pi}}\int^{\infty}_{-\infty}H(\omega)\exp(i\omega t)d\omega \tag{4-2}

最初にも書きましたが,ここでの形式的な違いは本質的な違いではありません.ただ,習慣的に工学の分野などでは角周波数を使うことが多いせいか,式(3),(4)でフーリエ変換を使う方が多いのは事実です.式(3),(4)でフーリエ変換をおぼえていらっしゃる方は是非,式(1),(2)でも覚えてみることをお勧めします.なぜなら,式(1),(2)のほうがずっとすっきりしていて理解しやすく,ラプラス変換の定義をフーリエ変換から考えるときも便利な形だからです.

[*]式(1),(2)とは違い,式(3),(4)には積分の前に定数が付いています.この定数はフーリエ変換対を正規化するためについてます.式(1),(2)の形にしてやれば,そんな定数をわざわざ付け足したりする必要はないんです!このあたりのことは,パーセバルの定理を参照してください.
[†]虚数単位について,この記事では i を使っていますが,工学の分野では,電磁気や電気回路などの電流を表す i と虚数単位が,式中でかぶって使われ,非常に間違えやすくなってしまいます.そのため,工学屋さんは虚数単位を j と書くことが常識です.

さて,とりあえず教科書に書いてあるような定義は見ました.このフーリエ変換は結局どんなことを h(t) に行っているのか,それはこれから見ていきましょう.

フーリエ変換は何をやっているのか?

フーリエ変換の形は何かに似ていますね. 相関関数 をすでに読んだ方,相関関数をご存知の方はピンと来ていたはずです.そうです.相関関数の形にとてもよくにています.もっと詳しく言えば,フーリエ変換は h(t)\exp(-i2\pi f t) との相関を取っているのです.そして,この値を f (周波数)の関数の値として表しているのです. これが,フーリエ変換のしていることです.

Important

フーリエ変換は,ある周波数をもった関数との相関値を表す関数を作り出している.

さてさて,ここまで天下り的に話を進めてきてしまいました.ここから,上の定義を頭において,フーリエ変換を詳しく見てきましょう.

まず, h(t) を何かの関数列に分解します. h(t) は無限個の元を持つ正規直交関数列 \{\exp(-i2\pi f t)=\cos(2\pi f t)-j\sin(2\pi f t) & & :-M<f<M (M \to \infty)\} に一意に分解することが出来るはずですから,

h(t)=\int^{\infty}_{-\infty}A(f)\exp(i2\pi f t) df\tag{5}

と表せるはずです.ここで, A(f) とは,ある周波数 f を持った \exp(j2\pi f t) に一意につく係数です.では,上の式をフーリエ変換の定義である,式(1)にしたがって,フーリエ変換してきましょう.式(1)より,以下の式になります.

H(f) &= \int^{\infty}_{-\infty}h(t)\exp(-i2\pi f t)dt\\ &= \int^{\infty}_{-\infty} \left\{ \int^{\infty}_{-\infty}A(f') \exp(i2\pi f' t) df' \right\} \exp(-i2\pi f t) dt\\ &= \int^{\infty}_{-\infty} \int^{\infty}_{-\infty}A(f') \exp\{i2\pi (f'-f) t\} dt df'\\ &= \int^{\infty}_{-\infty} A(f') \lim_{T \to \infty}\left[ \frac{\exp\{i2\pi (f'-f) T\}-\exp\{-i2\pi (f'-f) T\}}{i2 \pi(f-f') }\right]\\ &= \int^{\infty}_{-\infty} A(f') \lim_{T \to \infty}\left[ \frac{\sin\{ 2\pi (f'-f) T \}}{{\pi(f-f') }}\right]\\ &= \int^{\infty}_{-\infty} A(f') \delta (f'-f) df'\\ &= A(f)
[‡]上の証明で,5段目から6段目では, \delta 関数の定義である \delta(f)=\lim_{a \to \infty}\frac{\sin af}{\pi f} を使うことによって証明できます.この変換は有名なもので,しばしば登場します.知っておくと,便利でしょう.詳しく考えてみたい方は,デルタ関数の定義をもとにチャレンジしてみてください.

おぉ〜!!なんと, A(f) は, f(t) のフーリエ変換の結果である H(f) に等しいことが分かりました.どうやら,フーリエ変換は h(t) と周期関数との相関を出してくれるだけでなく, h(t) をある正規直交の周期関数列に分解したときの係数を表してくれるのですね.

というより,ここまでの議論からして,どんな周波数 f についてでもフーリエ変換が,ある周波数関数との相関値と係数を導き出してくれることがいえますので,相関値の関数と係数の関数は等価なものと考えるのが自然なようです.なので,,,

Important

フーリエ変換は,元が互いに正規直交の関係である周期関数列に分解したときに個々の元(関数)につく係数を表している.

これも,フーリエ変換の重要な役目なのです.