メタンハイドレート

 日本は石油や天然ガス等のエネルギー資源を主に外国からの輸入に長年頼ってきました.近年,これらのエネルギー使用量の増加に伴い,過排出される二酸化炭素による地球温暖化が懸念されています.また,エネルギーを将来的に安定に供給していくために,従来の化石燃料の他に新たなエネルギー源の開発も必要とされています.メタンハイドレートは,日本近海に大量に存在する天然資源です.後述するように,このメタンハイドレートを有効活用することが出来れば,日本はエネルギー資源を外国に頼らなくて良くなる日が来ます.そんな身近にあるようで,実はまだ気軽に利用できない「メタンハイドレート」をご紹介します.

メタンについて

 メタン( \mathrm{CH}_{4} )は最も簡単な構造の炭化水素です.高校生の方は,化学の教科書の「有機化学」の章を御覧下さい.水素/炭素比が大きく単位エネルギー当たりの二酸化炭素排出量が少ない(表.1)このメタンを主成分とする天然ガスがクリーンなエネルギー源として世界的に注目を集めています(しかし,メタン自身に温室効果があることも知られています).このメタンは永久凍土や深海においてハイドレート [*] を形成して多量に存在していることが知られており,エネルギー源として開発される事が期待されています.しかし,メタンハイドレートの生成条件は後述するように高圧,低温であるためその基礎研究も近年まであまり進行しなかったのです.現在,メタンハイドレートに関する研究が盛んになり,その構造や物性が明らかに成りつつありますが,更なる基礎研究が必要とされています.

[*]ハイドレートとは,水の結晶の中に他の分子が入り込み,クラスレート化合物を生成したものです.クラスレート化合物とは,三次元の骨組みをとる結晶の隙間に他の分子が一定比で閉じこめられた状態の化合物のことを指します.

表.1 ガソリンを1としたときの二酸化炭素排出量

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メタンハイドレートってどんなもの?

 天然のメタンは北極圏等の凍土地帯や深度500m程度以深の深海地層中で低温高圧下のため水とクラスレート化合物を生成しメタンハイドレートとして大量に存在しています.深海におけるメタンハイドレートの存在分布に関しては, 参考文献5 を見てください.近年,環境問題やエネルギー問題からこのメタンハイドレートに大きな関心が持たれており,通産省工業技術院地質調査所(現 独立行政法人産業技術総合研究所地質調査総合センター )の試算によると,日本近海(図.1)での存在量は天然ガス換算で約 6.0\times 10^{12}\,\mathrm{m^{3}} (現在の国内年間天然ガス資源量の100倍以上)であると言われています.

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図.1 日本近海におけるメタンハイドレート分布図

 図.2にStackelbergらによるX線回折測定によってわかったメタンハイドレートの構造を示します.1個のメタン分子が5.75個の水の作るかごに取り囲まれているという特殊な構造を取っています.メタンハイドレートは見かけ上シャーベットに似た氷状の固体物質で低温高圧の環境条件下で安定に存在しており,常温常圧ではメタンと水に分解してしまいます.例えば,メタンハイドレートが存在するには, 0\ {}^\circ\mathrm{C} で26気圧以上, 10\ {}^\circ\mathrm{C} では76気圧以上の温度圧力条件が必要であるそうです.

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図.2 メタンハイドレートの構造

 このメタンハイドレートをうまく利用することができれば次世代のエネルギー資源として期待ができます.そしてこのメタンハイドレートの生成機構の理解を深め,どのように安定に貯蔵し輸送するかが重要になってくるわけです.

 関心を持った方は,是非参考文献を御覧になって下さい.そして,もしその道の研究に進むような方が物理のかぎしっぽの読者から生まれたら,我々プロジェクトメンバーとしても望外の喜びです.「どんな学科に進めば良いのか?」とお思いの方は,メタンの性質を研究するなら物理系や化学系,海洋や採掘に関してであれば地学系の学科(地球科学科でメタンハイドレートについて学習したと聞きました)に進むと良いと思われます.