電磁気学の出発点となるのが「クーロンの法則」と呼ばれる法則です.この法則はクーロン(Charles Augustin de Coulomb; シャルルド・クーロン)というフランスの物理学者がねじり秤という測定装置を使って発見しました.
クーロン法則によると , という二つの点電荷があるとき,その電荷の間に
という力が働きます.この力をクーロン力といいます.この法則の発見は大変重要なもので,長い間止まっていた電気現象の研究はこの法則の発見によって新しい時代を向かえました.この法則は万有引力の法則
にとてもよく似ていて,どちらも距離の二乗に反比例しています.
万有引力の違いとして,まず電荷にはプラスとマイナスの符号があることが上げられます.ご存じの通りプラスとマイナスなら引き合い(引力),プラス同士またはマイナス同士なら離れ合います(斥力).万有引力の法則は引力しか働きません(マイナスの質量を持つ物質があるなら斥力,つまり反重力が生まれるかもしれません).
つぎに,クーロンの法則で働く力はともつもなく大きいということ.重力の力なんて天体規模の大きさにならなければ感じとれませんが,電気の力は物質中でほんの少し電荷分布にズレがあるだけで,人間が感じとれる程大きな力が発生します.稲妻の閃光や雷鳴も,空気中の電荷分布がちょっとズレたことで生まれるものです.
クーロンの法則の式を見ると分かるように,力 が電荷によって決められています.物理で扱う力の単位は,ニュートンの運動方程式
から定義されるニュートン(記号 N; )という単位です.力の単位がたくさんあると困るので,いや別にいっぱいあってもいいんですが分かりにくいので,電荷から定義されるクーロンの法則の力 も,ニュートンの運動方程式から定義される力 と同じ単位であった方が便利です.
電荷と距離から力を決めているクーロンの法則の力と,質量と加速度から決まるニュートンという力とは全く関係がないように思えます.でもこれら二つの力は同じ単位になるようにできています.実は細工がしてあって,それはクーロンの法則に付いている という比例定数です.
クーロンの法則の比例定数 は
という形をしています.なぜこんな形なのかはさておき,これをクーロンの法則にそのまま代入してみましょう.
なんだか余計ややこしくなりましたが, の というのは半径 の球の表面積です.ランプから光が出ていることを想像してみてください.この光は四方八方同じように,つまり球状に出ていますね.点から出ているものは球状に拡がっていきます.ということは,点から出て行くものの密度(強さ)は球の表面積に反比例するということです.球の表面積は ですから,クーロンの法則の力が に反比例することは直感的に理解しやすいと思います.
つぎは というわけのわからないものです. には真空の誘電率というカッコイイ名前が付いていますが,ただのつじつま合わせの量です.何と何のつじつまを合わせているかというと「電気量(クーロン)」と「力(ニュートン)」です.電気量クーロンとは電荷の単位のことで,C と書きます.
真空の誘電率 について考えてみます.まずは次元です.クーロンの法則
の左辺は ですから,力の単位です.これをニュートンで表してつじつまを合わせればいいので,
したがって
電気量 C の次元は [s・A],力 N の次元は [kg・m/s2] なので
となります.つぎに の大きさですが,これは電気量と力ニュートンの関係がわかっていないとどうしようもありません.物理は自然科学ですから,こういうことは実験で決めます.その大きさは
なのですが,これは磁場の力であるローレンツ力から決定されます.ローレンツ力については別のページで書きます(ごまかした).とっ,とにかく,重要なのは,真空の誘電率を導入することで,電気量から生まれるクーロン力をニュートンといういつもの力の単位で扱えるということです.