コンデンサーの過渡現象

コンデンサを充電すると電荷 Q = CV が蓄えられるというのは,高校の電気の授業で最初に習います. しかし,充電される途中で何が起こっているかについては詳しく習いません. このような充電中のできごとを 過渡現象 (かとげんしょう)と呼びます. ここでは,コンデンサーの過渡現象について考えていきます.

回路方程式

次のような,抵抗値 R の抵抗と,静電容量 C のコンデンサからなる回路を考えます.

co-circuit-01.png

まずは回路方程式をたててみましょう.時刻 t においてコンデンサーの極板にたまっている電荷量を Q(t) ,電池の起電力を E とします. [1] 電流と電荷量の関係は I(t) = \frac{dQ(t)}{dt} で表されるので,抵抗での電圧降下は RI = R \frac{dQ}{dt} ,コンデンサーでの電圧降下は \frac{Q(t)}{C} です. キルヒホッフの法則から回路方程式は

E = R \frac{dQ(t)}{dt} + \frac{Q(t)}{C} \tag{1}

となります.

[1]電池の起電力 - 電池に電流が流れていないときの,その両端子間の電位差をいいます.

回路方程式を解く

では回路方程式 (1) を,初期条件 Q(t=0) = 0 のもとに解いてみましょう. これは変数分離型の一階線形微分方程式ですので,以下のようにして解くことができます.

E = R \frac{dQ(t)}{dt} + \frac{Q(t)}{C}\\\left( E - \frac{Q(t)}{C} \right)^{-1} dQ = \frac{1}{R} dt

これを積分すると,

\ln \left( E - \frac{Q(t)}{C} \right) = - \frac{1}{RC} t + \ln K

となります.ここで \ln K は積分定数です. Q(t) について解くと,

E - \frac{Q(t)}{C} & = K e^{-\frac{1}{RC}t}

より,

Q(t) = CE - KC e^{-\frac{1}{RC}t} \tag{2}

となります.

初期条件 Q(t=0) = 0 から,積分定数 K を決めてやると, CE - KC = 0 より K = E であることがわかります. したがって,コンデンサにたまる電荷量 Q(t)

Q(t) = CE\left( 1 - e^{-\frac{1}{RC}t} \right) \tag{3}

となります.グラフに描くと次のようになります.

co-circuit-graph-01.png

また,(3)式を微分して電流 I(t) も求めておきましょう.

I(t) = \frac{dQ(t)}{dt} = \frac{E}{R} e^{-\frac{1}{RC} t} \tag{4}

電流のグラフも描くと次のようになります.

co-circuit-graph-02.png

消えたエネルギー

co-circuit-01.png

ところで私たちは高校の授業で,上のような回路を考えたときに電池のする仕事 W_{\text{battery}}W_{\text{battery}} = QE であると公式として習いました.

いっぽう,コンデンサーが充電されて,電荷 Q がたまったときのコンデンサーがもつエネルギー U静電エネルギー といいました)は, U = \frac{1}{2}QE であると習っています.

電池がした仕事が QE ,コンデンサーに蓄えられたエネルギーが \frac{1}{2}QE . 全エネルギーは保存するはずです.あれ?残りの \frac{1}{2}QE はどこに消えたのでしょうか?

謎解き

さて,この謎を解くために,電池のする仕事について詳しく考えてみましょう.

起電力 E を持つ電池は,電荷を電位差 E だけ汲み上げる能力をもちます. この電池が微少時間 dt に電荷量 dQ だけ電荷を汲み上げるときにする仕事 dW

dW = E dQ \tag{5}

です.(4)式の両辺を単純に積分すると

W = E Q \tag{6}

という関係が得られます.

したがって,電池が I(t) = \frac{dQ(t)}{dt} の電流を流すときの仕事率 P = \frac{dW}{dt} は (4)式より

P = \frac{dW}{dt} & = E \frac{dQ(t)}{dt}\\                & = E I(t) \tag{7}

となります.

さて,電池のした仕事がどうなったのかを,回路方程式 (1) をもとに考えてみましょう. 回路方程式 (1)式の両辺に,電流 \frac{dQ}{dt} = I(t) をかけてみます.

E \frac{dQ}{dt} & = R \left( \frac{dQ(t)}{dt} \right)^2 + \frac{Q(t)}{C} \frac{dQ(t)}{dt} \\E I(t)          & = R {I(t)}^2 + \frac{d}{dt} \left( \frac{{Q(t)}^2}{2C} \right) \tag{8}

左辺が(6)式の仕事率の形になりました. 両辺を時間 t0 から t まで積分します.初期条件は Q(t=0) = 0 でしたので,

\int_0^t E I dt        & = \int_0^t I(t)R^2 dt + \int_0^t \frac{d}{dt} \left(\frac{{Q(t)}^2}{2C}\right) dt \\\int_0^t \frac{dW}{dt} & = \int_0^t I(t) R^2 dt + \frac{{Q(t)}^2}{2C} \\W(t)                   & = \int_0^t I(t) R^2 dt + \frac{{Q(t)}^2}{2C} \tag{9}

となります.この式は,左辺が 電池のした仕事 ,右辺の第一項が時刻 t までに発生した ジュール熱 ,右辺第二項が(時刻 t で) コンデンサーのもつエネルギー です.

(7)式において t \rightarrow \infty の極限を考えると,電池が過渡現象を経てした仕事 W_{\text{battery}} は最終的にコンデンサに蓄えられた電荷 Q を用いて

W_{\text{battery}} = \int_0^{\infty} I(t) R^2 dt + \frac{Q^2}{2C}

と書けます.過渡的状態を経て平衡状態になると,コンデンサーと電圧と電荷量の関係式 Q = C E が使えるので右辺第二項に代入して

W_{\text{battery}} = W_{\text{Joule}} + U_{\text{C}} \tag{10}

となります.ここで U_{\text{C}} = \frac{1}{2}CE^2 は静電エネルギー, W_{\text{Joule}} は平衡状態に至るまでに抵抗で発生したジュール熱で,

W_{\text{Joule}} = \int_0^{\infty} I(t) R^2 dt \tag{11}

です.(11)式に先ほど求めた(4)式の電流 I(t) を代入すると,

W_{\text{Joule}} & = \int_0^{\infty} \frac{E^2}{R} e^{-\frac{2}{RC} t} dt \\                 & = \frac{E^2}{R} \left[ - \frac{RC}{2} e^{-\frac{2}{RC} t} \right]_0^{\infty} \\                 & = \frac{1}{2} CE^2 \tag{12}

となります.

結局どういうことか?

W_{\text{battery}} = W_{\text{Joule}} + U_{\text{C}} \tag{10}

上の謎解きから,電池のした仕事 W_{\text{battery}} = Q E = CE^2 は,回路の抵抗で発生したジュール熱 W_{\text{Joule}} = \frac{1}{2}CE^2 と コンデンサに蓄えられたエネルギー U_{\text{C}} = \frac{1}{2}CE^2 に化けていたということが分かりました. つまりエネルギー保存則はきちんと成り立っていたわけです.

注意点

ここで一つ注意したいことがあります. (12)式によれば,ジュール熱 W_{\text{Joule}} は抵抗の大きさ R には依らず,ジュール熱は必ず \frac{1}{2} C E^2 だけ発生します. つまり過渡状態から平衡状態になるまでに, 必ず 電池がした仕事の半分だけジュール熱が発生するということです.

図の抵抗 R を取り去ったとしても,回路には導線自身がもつ抵抗や電池の内部抵抗 r があります. [2] したがって,最初に示した回路図に抵抗がない場合でも,現実の回路は寄生的な抵抗 r をもつのでこの関係は成り立ちます.

[2]普通は R >> r なので r は無視して考えます.この記事でも r は無視しました.