この記事では,相対性理論などに使われるミンコフスキー空間という空間上での微分形式を考えてみます.立派な名前がついていますが,どんな空間なのかと言えば,四次元空間です.特徴として,座標基底の中に 計量が負になるものが一つ あります.このような場合, ホッジ作用素 の取り方に注意が必要でした.( ホッジ作用素 や p-ベクトルの内積 の記事中にもミンコフスキー空間に関する注意を書いていますので,参照下さい.)もう一度,ホッジ作用素の定義を思い出しましょう. 上の 次微分形式の基底を とすると, は の基底 となります.
ただし, は,ボリュームフォームの基底の偶順列だとします.(これらは全て既習の内容なので,少し説明を端折っています.訳が分からないという人は, ホッジ作用素 の内容をもう一度よく復習して下さい.)式 で問題なのは,右辺の という内積です.ミンコフスキー空間の正規直交基底を とすると,最初の三つは,普通のユークリッド空間でお馴染みの基底ですが,四番目の が例の,計量が負になる基底になります.基底の内積は次のようになります.
式 は正規直交基底の定義として,よく知っているものです.式 が特徴的ですね.このような計量を ローレンツ計量 と呼びます.このため,例えば の場合と, の場合では,内積 が異なってきます. p-ベクトルの内積 に従って,計算してみましょう.
どうやら, が混ざっていると になるようです.以上の議論を念頭に置きつつ,次のセクションではミンコフスキー空間上の微分形式を考えてみます. 四次元の微分形式 とも,後で比べてみて下さい.
一次微分形式の基底を とします. の前についている が妙ですが,これは単なる定数です.気にしないで下さい(・ω・).空間の向きを という順列に決めましょう.このとき,ホッジ作用素の写像の仕方に注意が必要です.前セクションの議論により, が右辺に出て来る写像には, が掛かってきます.
さらに,二次微分形式の基底のホッジ作用素も考えてみましょう.できれば,式 の定義通りに計算して,これらの関係を一度自分で確認してみて下さい.
ここで,式 で用いた基底の並びは,全て という順列の偶順列になっていますので,右辺に出てきたマイナスは,ひとえに 軸の計量が負であるという事情だけによるものです. を の偶順列とし, を と表現することにすれば,式 をまとめて次のように略記することも出来ます.
ミンコフスキー空間上の微分形式などという変チクリンなものを考えた理由は,電磁気学の基礎方程式とも言えるマックスウェルの方程式を,微分形式を使って美しく記述したいという動機によるものです.本当に美しく簡単な形にまとまりますので,純粋に美学的・審美的観点からもぜひ眺めてみて欲しいものですし,そのあまりにも単純な形から,(特に幾何学的な考察によって)電磁気学をより深く理解する一助ともなることでしょう.ミンコフスキー空間上の微分形式によるマックスウェル方程式の定式化は, 次 の記事で考えます.
ミンコフスキー空間にその名を残すミンコフスキー( )は,現在のリトアニア(当時はロシア帝国領)に生まれました.両親はドイツ人で,一家もその後ドイツのケーニヒスベルグ(現在はロシアの飛び地)に引っ越していますので,ミンコフスキーはドイツ人だと考えた方が良さそうです.ミンコフスキーはケーニヒスベルグ大学へ進みますが,数学の才能は抜きん出ていたようです.ヒルベルト( )は大学の級友で,また新任教官にはフルヴィッツ( )がおり,彼等とは親友とも言える間柄でした.
後年,ミンコフスキーはボン,ケーニヒスベルグなどで職を得ますが,チューリッヒの で教鞭を取っていたときの学生にアインシュタイン( )がいます.最後はヒルベルトの招きに応じてゲッチンゲン大学に落ち着き,数学の研究に没頭します.ミンコフスキーの功績で何よりも有名なものは,ローレンツ( )とアインシュタインによる相対性理論を見事に記述する,ミンコフスキー空間という概念を数学的に洗練したことでしょう.ただし,ミンコフスキー自身の興味は純数学的内容に向いており,二次形式や連分数法の研究に時間をかけています.また,「数の幾何学」という分野はミンコフスキーによって創始された,幾何学と整数論が合わさったような分野で,ミンコフスキーの凸型定理という定理は有名です.