微小量の積

面積分や体積分には, dxdydxdydz といった量がたくさん出てきます.ここで,少し考えてみましょう.微積分では,いままで微小量 dx の高次の項,例えば dx^{2}dx^{3} を無視してきました.少し正確に言えば, dx \rightarrow 0 とした極限では,その影響を無視できると考えて来たわけです.ところが,面積分や体積分には dxdy , dxdydz といった形の微小量が出てきました.ここで『あれ,これは二次以上の微小量なんじゃないの?』と引っ掛かった人がいるかも知れません.

この事情は,直観的には次のように理解できます.図で考えれば, dx^{2} は線素である dx を二乗したのに過ぎないのに対し, dxdy は微小な面積を表わしているという違いが分かると思います.

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体積素についても同様です.『微小量の高次項は落とす』という,微積分学で使っていた近似は有効で, dS^{2}dV^{2} が式の中に出てきたら落としてしまって構いません.しかし,線素 dx ,面積素 dS ,体積素 dV は,一口に微小量と言っても 次元が違う微小量 なのです.

Important

dx^{2} は線素という微小量の二次の微小量ですが, dS=dxdy は面積素という微小量の一次の微小量です.

だいたいの直観的理解は上の図から得られると思いますが,正確な議論は解析学によらなければなりません.

微分形式による表現

微分形式による表現では,線素,面積素,体積素はそれぞれ一次微分形式,二次微分形式,三次微分形式の基底として表現されました.

dx,\ dy, \ dz
dy \land dz,\ dz \land dz, \ dx \land dy
dx \land dy \land dv

前セクションで,『線素 dx ,面積素 dS ,体積素 dV は,一口に微小量と言っても次元が違う微小量なのです』と書きましたが,微分形式で書けば,これらは全て異なるベクトル空間の元なのですから,違いはより明快です.

また,『同じ種類の微小量の高次項は落とす』というルールと,微分形式の『同じ元のウェッジ積は 0 になる』という演算則は綺麗に対応しています.(式中,例として dS=dxdy とします.)

dx^{2} =0     \ \ \rightarrow  \ \ dx \land dx =0
dS^{2} =0     \ \ \rightarrow  \ \ (dx \land dy ) \land (dx \land dy) =0
dV^{2} =0     \ \ \rightarrow  \ \ (dx \land dy \land dz) \land (dx \land dy \land dz)  =0

もう一度,強調しておきますが,微分形式の理論は,外積代数の枠組みで,基底を x,y,z などの代わりに dx,dy,dz としてみただけのものでした.そして,外積代数の演算規則そのものは,テンソル代数から導かれたもので,あまり微積分学とは関係なさそうに思えました.ところが,微分形式を,線素,面積素,体積素などと対応させて考えてみると, 微積分の演算法則と外積代数の演算則が,驚くほど整合する ことに気がつくと思います.これは,なぜなんでしょうか?著者も浅学なため,深遠な理由は分かりませんが,とにかく微分形式の表現の美しさには感嘆させられるばかりです.

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数学は美しい.驚くほど美しい.美術館に飾れないのが残念だ.