微分形式の積分と向き

ストークスの定理,ガウスの定理,平面のグリーンの定理などの一般化を考えるための一つの準備として,微分形式の積分と向きという問題を考えておきます.(今まで外微分は考えてきましたが,微分形式の積分には触れませんでした.)向きを保つ座標変換に対して微分形式の積分は不変ですが,向きを変えるような座標変換に対しては符号に注意しなければなりません.同様の注意は,今までにも何度も出てきていますので,特に新しい話題ではありません.

微分形式の積分

領域 D を, R^{n} 内の有界領域とします. D で定義される n 次微分形式 \omega を次のように書きましょう.

\omega = fdx^{1} \land dx^{2} \land \cdots \land dx^{n}       \tag{1}

これはつまり,ボリュームフォームです.このとき, \omegaD での積分 \int _{D}\omega を次のように定義します.

definition

【微分形式の積分】 \int _{D} \omega = \int \cdots \int \limits _{D}  f dx^{1}dx^{2} \cdots dx^{k}

さて,微分形式の微分とも言うべき外微分が座標系によらなかったこと同様,式 (2) で定義した積分も座標系によらないことを示せます.

theorem

写像 \phi を,領域 D 内での向きを保つ写像(向きを保つとはヤコビアンが正ということ)だとし, D\phi によって領域 \phi (D) に移されるとします.このとき \int _{D} \phi ^{*} \omega  = \int _{\phi (D)} \omega が成り立ちます.

私達は外微分に関して,座標不変性として d(\phi (\omega))= \phi (d \omega) を示しましたが( 外微分の座標不変性 参照),この d を,積分記号 \int に置き換えたのが上記の定理ですから,積分を微分の逆演算だとすれば,直観的には,定理の主張はいかにも成り立ちそうだと予想できると思います.

proof

まず D 上の座標を x^{i} , \phi (D) 上の座標を y^{i} と置きます.写像 \phi は, y_{i} = \phi^{i} (x^{1},x^{2},...,x^{n}) のように働きます (i=1,2,...,n) .このとき, \phi (D) 上の微分形式 \omega\omega = \bar{f} dy^{1} \land \cdots \land dy^{n} と定義します. \bar{f}=\bar{f}(y_{1},...,y_{n}) です. \omega に対して \phi の引き戻し \phi ^{*} を考えると( 微分形式の引き戻し1 参照), D 上の微分形式 \phi ^{*}\omega = (f\circ \phi )(x^{1},...,x^{n})d\phi^{1} (x^{1},x^{2},...,x^{n}) \land \cdots \land d\phi^{n} (x^{1},x^{2},...,x^{n}) を得ます.ここで, \phi ^{*}\omega の基底については d\phi _{i}=\frac{\partial \phi^{i}}{\partial x^{j}}dx^{j} と書けて,まとめると d\phi^{1} \land \cdots \land \phi^{n}= \frac{\partial (\phi^{1},\phi^{2},...,\phi^{n})}{x^{1},x^{2},...,x^{n}}dx^{1}\land \cdots dx^{n} とヤコビアンを使った形に出来ます.(要するに基底の座標変換です. ウェッジ積の座標変換 を参照にして下さい.)このヤコビアンを |\phi | と書くと,結局, \phi ^{*}\omega = (f \circ \phi)|\phi|dx^{1}\land \cdots \land dx^{n} が成り立ちます.この両辺の積分を取ると,積分の定義(式 (1) )より, \int _{D} \phi ^{*}\omega = \int _{D}(f \circ \phi)|\phi|dx^{1}\land \cdots \land dx^{n} = \int _{D} (f \circ)|\phi| dx^{1} \cdots dx^{n} =\int _{\phi (D)} f dy^{1} \cdots dy^{n} となり,定理が示されます.■

証明の最後の段,最後の式変形は,重積分の積分変数を変換しただけです.(ヤコビアンで変数変換し,積分範囲もそれに伴って変更したわけです.)微分形式の積分を式 (1) のように定義したので,自然に重積分の公式を使って,変数と積分範囲を変更できたわけですが,この定理に関して注意すべき点があります.

わざと証明の中で明示的に言わなかったので,少し引っ掛かって欲しかったのですが,途中で出てきたヤコビアン |\phi| は,いま前提として『向きを保つ変換』だけを考えているので定理のようになるのです.空間の向きを逆にする座標変換なら,符号が逆になりますので注意して下さい.

[*]もっとも,今後は主に向きを保つ変換だけを考えて行きますので,この注意を喚起するのも今だけかも知れません.