リー環,もしくは,同じものですがリー代数 において,交換子から定まる構造定数 を 次の様に定めます.
ここで, は虚数単位で,交換子は を表します. また,アインシュタインの縮約規則を用いて, は全ての元にわたる和です.
リー環というと,特定の代数演算の関係が決められた抽象的な 代数ですが,それと同じ関係を満たす行列で具体的に表すことができます. その代数の行列化をリー環の「表現」と言います. 表現にはいろいろな種類がありますが,その中で今回は随伴表現 というものを紹介します. ここで, は表現(行列)で は行列の成分で は行列の行, は行列の列を指定します. 不思議な事にこれは元のリー環の一つの表現になっているのです.
リー環には,交換子からなるヤコビ恒等式があります. それは,
という任意のリー環に対して恒等的に成り立つ関係式です. ただし,右辺の はリー環のゼロ元です. この関係は,実際に行列を持ち出すことなく, 代数的に展開してやれば,確認できます.
さて,式 を式 の関係を用いて, 変形していきましょう.
の様に計算していくと,ヤコビ恒等式は,
ここで,任意の に対して,上式は成立するので, を除いて,
さて,随伴表現との対応を見てみましょう.
の様に決めると,式 は,
ここで全体の符号を反転させて, の関係を使うと(これは構造定数が交換子から作られていて, であることから出ます.), より が言えるので,
となり,よって,
ですから,これは,リー環が満たす代数関係
に対応しています.(単連結な)リー代数の構造は構造定数によって, 完全に決定されます.よって, はリー環の表現だと分かります.
最後に具体例として,同じ構造定数を持つ と の随伴表現を 見て終わりにします.その構造定数は例えば,パウリ行列 が
で,
とすれば,
より,ゼロにならないのは,
と分かるので,随伴表現の行列 は,
より,随伴表現が表現として成立しているか確かめると, 確かに例えば,
となり,確かに元のリー代数と同じ構造定数を持つ表現になっていることが分かります.