仮想仕事の原理とは,要するに「つり合いの条件を求める手法」です. 運動方程式に仮想変位をかけたもの,として表現されます. この記事では,仮想仕事の原理の紹介と,その簡単な適用例を紹介します.
ニュートンによる運動の法則力によると,物体に力が働かないか,働いた力がキャンセルすれば, 物体は静止もしくは等速直進運動を続けます.力がつり合っている状態とは, 働いた力(ベクトル量)がキャンセルした状態であり,
と足し合わせていったものが結局はゼロになる,という状態です. 全部で 個の力が加わっているならば,つり合いの条件は
と書くことができます.
ここで,仮想変位というものを考えます. 仮想という単語がつくと難しそうに感じますが,それほど大それた代物ではありません. 仮想変位とは,力 を変化させないような無限小の変位を,仮に考えるということです (実は,この仮想変位こそが解析力学の出発点となります). 無限に小さいという意味で変数の前に を付けます. 仮想変位を直交座標で表すと
となります.
力学の問題を考える場合,物体は三次元になんの制約もなく自由に動きまわっているのではなく, 糸や地面だとか棒だとかに束縛され,制約を受けています. これらの「動きを束縛する力」のことを「束縛力」(または拘束力)と言います. 束縛力の働く系のことを束縛系といったりもします.
ただ,振り子をつり下げている糸のように, 多くの束縛力は物体の運動方向に垂直であり,系に対して仕事をしません. ですからほとんどの束縛系では,束縛力のする仕事を除いて問題を考えます. 逆に,束縛力が仕事をする場合とは,たとえば摩擦力が働く場合です.
力が加わっている物体が変位すると,その分だけ仕事がなされます. 仮想仕事とは,仮想変位によってなされる仕事のことです. 外力を とし,仮想変位のする仕事を とすると
で表せます. も もベクトルなので,仕事は両者のスカラー積になっています. つり合いの状態であるならば式(1)が成り立つので
が得られます.これが仮想仕事の原理です.この原理が言っていることは, 要するに「仮想変位のする仕事をすべて足してゼロならば外力はつり合っている」ということです.
つぎの図のようなシーソーに仮想仕事の原理を適用し,つり合いの条件を求めてみます.
シーソーの両端におもりが乗せてあり,その重力は左と右でそれぞれ , とします. 支柱から見て,シーソーの左側の長さが ,右側の長さは となっています. いま,仮想変位を考えるために,シーソーを, 図のようにわずかな回転角 だけ仮想的に回転させます.
すると,シーソーの両端部分は,左と右でそれぞれ
という仮想変位を行います(円弧の長さは「半径×中心角 [rad]」となるのはいいですよね). この仮想変位のなす仕事は,力 , と 仮想変位 , の スカラー積(力と仮想変位のなす角は )をとったものですから
となります.力がつり合うならば,仮想仕事はゼロですから
したがって
という,良く知られているつり合いの式が得られます.
上の例はよく知られているつり合い条件なので,わざわざ仮想仕事を持ち出すまでもありません. が,束縛力がたくさんあって束縛条件が複雑な場合でも, 仮想変位を考えて仮想仕事の原理を適用するという同様の方法で, つりあいの条件を求めることができます.