調和振動子とラグランジュの運動方程式

ラグランジュの運動方程式 の簡単な適用例として,調和振動子の運動を考えてみます.

調和振動子

バネに取り付けられたおもりが振動するような運動を,調和振動子といいます. 自然界にはこのような運動が多くみられるため, 物理の問題でも調和振動子が多く登場しています. ここでラグランジュの運動方程式を考えるのは, つぎの図のような,水平面上の調和振動子です.

fig1.png

図のように座標軸等を取り,おもりの質量を m とします. ニュートンの運動方程式はすぐに分かって,

m\frac{d^2x}{dt^2}= -kx

となります.このあらかじめ分かっている方程式を わざわざラグランジュの方程式から導いてみる,ということをします.

ラグランジアン

ラグランジアンを書き出します. 解析力学のお偉いさん,ラグランジアン L とは, T を運動エネルギー, U をポテンシャルエネルギーとして

L = T-U

なる量のことでした.ティーまいなすユーです. いまは単純な調和振動子の運動を考えていますから, 運動エネルギー,ポテンシャルエネルギーはすぐに分かって

T = \frac{1}{2}m\dot{x}^2, \quad U=\frac{1}{2}kx^2

と書けます.ここで \dot{x} とは x の時間微分,すなわち速度のことです. したがってラグランジアン L

L = T-U = \frac{1}{2}m\dot{x}^2-\frac{1}{2}kx^2

となります.位置 x と,その時間微分 \dot{x} は, 独立した変数として取り扱うことに注意しておきます.

ラグランジュの運動方程式

さて,ラグランジアンが分かったので, いよいよ ラグランジュの運動方程式 を考えましょう. ラグランジュの運動方程式は

\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial L}{\partial \dot{x}}\right)  - \frac{\partial L}{\partial x} = 0 \tag{1}

というものでしたから,さきほどのラグランジアンを この方程式に代入して計算します. 計算すると,ニュートンの運動方程式と同じ形になるはずです. いっぺんにやると難しそうなので,左側第1項から順々に計算してみます.

第1項を計算

ラグランジアンを \dot{x} で偏微分します. x の項は消えます.さらにそれを時間微分します.

\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial L}{\partial \dot{x}}\right) &= \frac{d}{dt}\left\{ \frac{\partial}{\partial \dot{x}} \left(\frac{1}{2}m\dot{x}^2-\frac{1}{2}kx^2\right) \right\}\\ &= \frac{d}{dt}(m\dot{x}-0)\\ &= m\ddot{x} \tag{2}

第2項を計算

ラグランジアンを x で偏微分します. \dot{x} の項は消えます.

\frac{\partial L}{\partial x} &= \frac{\partial}{\partial x} \left(\frac{1}{2}m\dot{x}^2-\frac{1}{2}kx^2\right)\\ &= -kx \tag{3}

ラグランジュの運動方程式を計算

各項が計算できたので,ラグランジュの方程式

\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial L}{\partial \dot{x}}\right)  - \frac{\partial L}{\partial x} = 0 \tag{1}

を整理します.式(1)に式(2),(3)を代入すると

m\ddot{x}-(-kx) = 0

となります.移項して

m\ddot{x} = -kx

であり,さらに \ddot{x} を微分の形で表すと

m\frac{d^2x}{dt^2} = -kx

です.これは,最初にみたニュートンの運動方程式です. 今回は,1次元の調和振動子を例にとって ラグランジュの運動方程式のアプローチを練習してみました. しかしこれだけでは,計算が繁雑になっただけでなんのメリットもありません. つぎはこれと同様のアプローチで,ニュートンの運動方程式を直接記述するのが難しい, 極座標の運動を記述してみましょう.