一般化運動量と循環座標

ニュートン力学では,運動量や角運動量は大事な概念のひとつでした.ここでは,解析力学の立場で 運動量を一般化して定義したいと思います.

一般化運動量

ニュートンの運動方程式を基礎とする立場では,運動量 \bm{p} は物体の質量 m と 速度 v を用いて, \bm{p}=m\bm{v} と定義されていました.変分原理を基礎とする 立場にでは,どのように定義するのが妥当でしょうか?解析力学ではいろんな物理量が 座標系によらない形になりましたが,直交座標系では慣れ親しんだ概念に戻ってきてくれ ましたよね.運動量もそうなるように定義したいです.

そこで,ラグランジュの運動方程式をもう一度見てみましょう.

{\mathrm{d}\over\mathrm{d}t}{\partial L\over\partial \dot{q}_k}-{\partial L\over\partial q_k}=Q_k \tag{1}

左辺第2項を右辺に移項すると

{\mathrm{d}\over\mathrm{d}t}{\partial L\over\partial \dot{q}_k}={\partial L\over\partial q_k}+Q_k \tag{2}

となります. 式(2)の右辺は保存力による一般化力と非保存力による一般化力の和となっていますね. 直交座標系では普通の力になることを確認してみてください.

そこで,次の関係式を思い出してみましょう.

{\mathrm{d}\over\mathrm{d}t}\bm{p}=\bm{F} \tag{3}

これは,ニュートンの運動方程式ですね.式(2)と式(3)を見比べてみましょう.似た形をしていますよね. どちらも右辺には力に関連する物理量があり,左辺はある物理量の時間微分で表せています.

そこで,ラグランジュの運動方程式を

p_k\equiv{\partial L\over\partial \dot{q}_k},\quad F_k\equiv{\partial L\over\partial q_k}+Q_k \tag{4}

と文字を置きなおしてみると次のようになります.

{\mathrm{d}\over\mathrm{d}t}p_k=F_k \tag{5}

このように書けば,式(3)との類似性は明らかですね. F_k は一般化力を表すのですから,物理的な 類似性もちゃんと兼ね備えています.

よって, {\partial L\over\partial \dot{q}_k} で定義される p_kq_k に正準共役な一般化運動量 (もしくは一般運動量)と呼びます. L=T-V と書けるならば,直交座標系では普通の運動量を,極座標では 角度を表す変数について角運動量を表すことなどを確認してみると理解しやすいでしょう.

循環座標

非保存力が働かない場合を考えます.このとき,ラグランジュの運動方程式は

{\mathrm{d}\over\mathrm{d}t}{\partial L\over\partial \dot{q}_k}={\partial L\over\partial q_k} \tag{6}

となりますね.さて,ラグランジアン L に一般座標変数の q_k が含まれていない場合を考えてみましょう. このとき,ラグランジアン Lq_k による偏微分は 0 になりますから,

{\mathrm{d}\over\mathrm{d}t}{\partial L\over\partial\dot{q}_k}=0\Leftrightarrow{\partial L\over\partial \dot{q}_k}\equiv p_k=\rm{const.}\tag{7}

が成立します.よって, q_k に正準共役な一般化運動量 p_k は保存量となります.

一般にラグランジアンに含まれない特定の座標変数を循環座標と呼びます.次の例題で示すように,循環座標が できるだけ多くなるように座標系を選んでいくと問題が解きやすくなります.

例題:万有引力を受けて運動する物体の運動方程式

一般化運動量や循環座標に慣れるために万有引力の問題を考えてみましょう. ある大きな天体(質量 M )の周りを質量 m の小さな物体が運動するときを考えます. M\gg m として,大きな天体は 動かないものとして考えましょう.大きな天体の位置を原点として,この系のラグランジアンは極座標 (r,\theta ) を用 いて次のようにかけます.

L={1\over2}m(\dot{r}^2+r^2\dot{\theta}^2)+G{Mm\over r}

ここで, \theta はラグランジアンに含まれていませんから,循環座標になっていますね. では, r\theta について,ラグランジュの運動方程式をそれぞれたててみましょう.

{\mathrm{d}\over\mathrm{d}t}{\partial L\over\partial\dot{r}}={\partial L\over\partial r}\Leftrightarrow m\ddot{r}=mr\dot{\theta}^2-G{Mm\over r^2}
{\mathrm{d}\over\mathrm{d}t}{\partial L\over\partial\dot{\theta}}=0\Leftrightarrow mr^2\dot{\theta}=\rm{const.}

上に示した式の2番目の式は角運動量保存則を表しています.そこで, l=mr^2\dot{\theta} とおけば, l は定数 なので \dot{\theta}={l\over mr^2} とおくことで運動方程式は

m\ddot{r}={l^2\over mr^3}-G{Mm\over r^2}

となって,結局1変数問題に帰着させることができます.一般に循環座標が存在すればその分だけ変数を減らすことが できるのです.