行列式の定義を見ると,どうしてこのような式を考え付いたのか想像しにくいですね. 行列式を使わずに連立1次方程式を解いて,行列式の導出を試みましょう.
一般の場合は式が複雑で考えにくいので,まず
について考えましょう. を求めるために の辺々に をかけた
に対して,例えば
を辺々加算すると の係数が となります.また,
を加算すると の係数が 0 になります. の係数には が, の係数には が含まれているのがポイントで,
となるので,(とりあえず) を初期値として符号 を によって順次定めると
が得られ,総和をとると(結果的に) , の係数がいずれも 0 になることが分かります.
集合 に対する1対1写像を置換といい,とくに の任意の2数だけを交換する置換を互換といいます. と を交換する互換 は ですが,これを とかきます.任意の置換は互換の繰り返し(合成写像)で 表現できます.表現の仕方はいろいろありますが,置換を表現するのに必要な互換 の数は偶数か奇数かは変わりません.互換の数が偶数の置換を偶置換,奇数の置換を 奇置換といい,置換 の符号を偶置換のときは 奇置換のときは で定めます. の は互いに異なるので,置換 を用いて と表現でき,置換を用いると 元連立1次方程式への拡張が容易になります.
一般化準備として,まず
を置換を用いて書き換えましょう. とし
を代入した
が を求める式であることに注意. を求めるときの式は
あるいは を変更した
であり, を求める式は
です.上式の 3 を で置換し, の定義域を と考えれば, そのまま一般の場合に適用できます.
3 を で置換し, の定義域を と考えても を同じ式で 求められることを確かめましょう.
の についての総和をとると, の係数は
となります.ここで は , は を意味します.上式が成立することは である任意の置換 に対して置換 が存在して,
が成立するので, の係数である置換の総和を である置換の総和とそうでない置換の総和に分けると,これらの総和が相殺することから分かります.
(1)発見的に考えるには対象を簡単化して見易い記号を使うこと.最初から
で考えようとすると無用な複雑さで思考が妨げられます.
(2)「3元連立1次方程式」では に を 天下り的にかけましたが,
から を消去すると
が得られ,同様に
も成立するので, の係数に注目して
から,加重加算によって の係数を にできることが分かります.行列式で表すと
です.
(3)連立1次方程式
の解 は
から の係数が0でなければ一意に定まります.
を 要素とする 次正方行列 の行列式は
で定義されるので, の係数が を 要素とする 次正方行列 の 行列式であり,上式右辺は行列 の 要素を で置換した 行列の行列式になっていること(クラメルの公式)を確かめられます.