シローの定理

ここまで,類別,剰余類,ラグランジェの定理などに関係する話題をしばらく勉強してきました.群や部分群の位数の取り扱いにも,少し慣れてきたでしょうか?群の位数に関する定理で,とても重要なものにシローと定理があります.とても美しい定理です.この記事では,シローの定理,シロー群を勉強します.

ただし,シローの定理の結果はすぐには使いませんので,先を急ぐ人はこの記事を省略しても構いません.

シローの定理

シローの定理は,群の位数と部分群に関する,次のような定理です.

theorem

G の位数が,素数 p_{i} によって |G|={p_{1}}^{s}{p_{2}}^{t}\cdot \cdot \cdot {p_{n}}^{w} と,一意的に素因数分解されるとき,位数が {p_{1}}^{s},{p_{2}}^{t},...,{p_{n}}^{w} となる部分群が少なくとも一つは存在する.

例えば,正四面体群 P(4) の位数は 12 でしたから, 12=2^{2}\times 3 となって,正四面体群の部分群の中には,位数が 43 の部分群が,それぞれ少なくとも一つずつは存在することが保証されるわけです.実際に位数 43 の部分群が P(4) に含まれることを確認してみてください.

また, 群の位数と元の位数 で証明した『位数が素数の群は巡回群になる』という定理は,シローの定理を知っていれば当然の結果だと言えます.

本当はきちんと証明すべきですが,少し煩雑なので,この記事では証明を省略させて下さい.(需要が多そうならば,いずれ補足しますので意見をお寄せ下さい.) とりあえず,この秋空のように美しい定理の結果を,晴れやかな気持ちで味わって下さい.

[*]シロー( \text{Peter Ludwig Mejdell Sylow (1832-1918)} )はノルウェーの数学者です.ノルウェーはどういうわけか,アーベル,リーなど,群論に関わりの深い数学者を多く輩出しています.シローは苦労人で,若いとき大学に職が得られなかったため,高校教師をしながら数学の研究を一人で続けました.
[†]シローの定理は,コーシーの定理と言われる定理の一般化になっています.コーシーの定理とは『有限群 G の位数の約数 p (素数)に対し, G の元で位数が p のものが存在する』というものです.
Joh-Sylow.png

(有限群論を発展させたシロー)

シロー群

有限群 G の位数が,素数と p と, p と素な整数 l によって次のように表わせるとします.( (p,l)=1 は, pl が『互いに素』であることを示す記号です.)

|G| = p^{m}l , \  \  \  \  (p,l)=1

このとき,位数 p^{m} となる G の部分群(つまり |G| の素因数分解の中で, p の最大冪を位数に持つ部分群)を p-シロー群 と呼びます.シローの定理によって,任意の有限群には必ずシロー群が存在することが保証されます.この定理をシローの第一定理と呼ぶ場合もあります.

[‡]シローの定理は,p-シロー群が少なくとも一つ存在することを保証するだけのものですから,複数のp-シロー群が存在する可能性もあります.
[§]複数のp-シロー群が存在するとき,その個数は |G| の約数であり,さらに 1+kp の形で表わされることも証明されています(シローの第三定理).例えば,四次の対称群を考えてみます. |S_{4}|=24=2^{3}\cdot 3 です. 2 シロー群の個数は, 24 の約数 2,3,4,6,8,12 のうち, 1+2k の形に表せるのは 3 ですから, 2 シロー群は 3 個, 3 シロー群は 4 つあることが分かります.

シローの定理は,位数によって群の分類を行うときに威力を発揮します.群の位数による分類は,群の仕組みを理解する上でも良い練習問題になるので,また別に取り上げたいと思います.