ラグランジェの定理

ここまでに,群の位数と,元の位数という,紛らわしい二つの言葉が出てきました.混乱しやすいので,もう一度定義をおさらいします.

  1. 群の位数とは,群の元の数です.
  2. 元の位数とは,群のある元を生成元として有限部分巡回群がつくれるとき,その部分巡回群の位数のことです.

では,先に進みましょう.

ラグランジェの定理

有限群 G の位数と,その部分群 H の位数の間には,ラグランジェの定理と言われる美しい関係が成り立っています.

theorem

G の部分群の位数は, G の位数の約数になる. |G|=|G:H||H|

proof

G の部分群 H による類別が G=a_{1}H+a_{2}H+....+a_{r}H のように表わされるとします. G は有限群なので,有限個( r 個としています)の類によって類別できるはずです.そこで位数について |G|=r|H| の関係が言えます. rr=|G:H| と書くのでしたので, |G|=|G:H||H| が言えます.■

証明中では,当たり前と考えて言及しませんでしたが,各類に含まれる元の個数が H の位数に等しいことが本質的に重要です. H から a_{i}H の元を作る a_{i}h という演算は一意的なので, H の元と a_{i}H の元の間には一対一対応が成り立ち,元の個数は同じになるわけです.このあと軌道や中心という概念を勉強するとき,ラグランジェの定理が重宝しますので,覚えておくと良いでしょう.

[*]実は 剰余類2 で紹介した指数の定理 |G:K|=|G:H||H:K| において K=\{ e \} と置けばラグランジェの定理になります.
[†]ラグランジェの時代には群論はまだ完成していませんでしたが,既に幾つかの具体的な例について,ラグランジェはこの定理に気が付いていたということです.恐るべき慧眼です.
[‡]このあたりの記号にまだ慣れていない人は,もう一度 剰余類完全代表系と商集合 の記事を復習してください.
Joh-Lagrange.gif

(群論が生まれる前から群の概念に到達していたラグランジェ)

定理

theorem

位数が素数の有限群は巡回群であり,真部分群を持たない

proof

G の元 a (\ne e) を生成元として,巡回部分群 H を生成することを考えます.このとき,ラグランジェの定理により, |H||G| の約数となるはずですが, |G| は素数( P とする)ですから, |H|p1 しかあり得ません.しかし, H には少なくとも ae が含まれますので |H|1 ではなく, |H|=p が言えます. G の位数と部分群 H の位数が等しいということは, HG 自身であるということです.従って, HG の真部分群ではないことが言えます.■

[§]素数のことをよく p で表わしますが,英語で素数を prime \ number と言うので,その頭文字から来ています.