整数の全体が環になることは 環 の例で見ました.整数の環を 整数環 と呼ぶのでした.整数環の勉強には,素因数分解,合同など,整数ならではの知識がどうしても必要になってきます.
この記事の最後に整数の剰余類の環について勉強しますが,そこで,二つの整数 とその最大公約数 に対し,次の関係式を満たす整数 が必ず一組存在することを使います.
このような を探す問題はディオファントス方程式と呼ばれ,必ず解が一意的に決まることが知られていますが,ここでは解の存在証明は省略します(ゴメンナサイ (>_<)).
二つの整数 の最大公約数 は, という記号で書くことにします. となるとき aとbは互いに素である といい,自分より小さな全ての整数と互いに素になる整数を 素数 と呼びます.
整数環に関係深い概念に 整域 があります.整域の定義は,『可換環で,単位元を持ち,零元以外に零因子を持たない環』です.
整域の例として重要なのは, 整数環 と 多項式環 です.
整数環とは,普通の整数全体のことです.さきほど見たように,普通の意味で整数の足し算・掛け算を考えることで整数全体は環となります.整数の掛け算は可換です.しかも単位元 を持ち,零因子はありません.
ですから,整数環は整域になるわけです.
[*] | 整域という名前から分かるように,そもそも整域とは,整数の性質を念頭に置いて考え出された概念です. |
実数係数の多項式全体は,通常の加法と乗法に関して可換環になります.(これを 上の多項式環と呼び,以後 と書きます. は,実数体の意味です.)
次の二つの多項式に対し,加法と乗法がなりたつことを確認してみてください.
多項式環の単位元は です.また 以外に零因子はありません.(もし多項式環に零因子があるならば, という形に因数分解して方程式を解くことが出来なくなります).
多項式環は整域になります.
体では乗法の逆演算として除法が定義されていますので,乗法の零元以外には零因子を持ちません.また,体は単位元を持ち,体の乗法は可換と定義されていました.そこで, 体も整域だ と考えることができます.
整数環 は加法に関しては群になります.この加法群 の整数 による剰余群を考えます( は の倍数を含む剰余類という意味です).
整数 は のうちのどれかに属するはずですが,いま仮に を含む剰余類を と書くことにすると,すでに 体 の例6で見たように,剰余類の間に加法と乗法を定義できます.
ここで を素数ではないとすると, は のように素因数分解できるはずです.このとき ですが, がなりたちますので はそれぞれ互いに零因子であり, は整域ではなくなります.
逆に, が素数のとき, 以外の剰余類に属する元 に対して常に がなりたちます.そこで式 より を満たす整数 が存在しているはずで,剰余を考えると次式が示されます.
なんとこれは,式中の が の逆元になっているという主張です. は 以外の剰余類に属する任意の元でしたので,結局, が素数の場合は乗法に逆元も存在することになり, は体になります.(もちろん は整域にもなります.)
Important
整数の剰余類の環 は, が素数でない場合には零因子が存在し,整域にはならない.(単なる環). が素数の場合は,整域になり,乗法に逆元が入るので体になる.
整数の剰余環は,法とする整数が素数かどうかで,かなり構造が違ってくるんですね.