一つ前の記事で,準同型定理を勉強しました.準同型定理とは次のようなものでした.
theorem
群 の群 の上への準同型写像の核を とします.このとき, と は同型になります.
証明も簡単につけましたが,これだけではまだ,定理の意味(使い勝手や,威力を発揮する場面を含めて)がピンと来ないと思います.この記事では定理の復習も兼ねて,幾つか例を見ます.
複素数の乗法群 (複素数全体から を抜くと乗群になります)から,正の実数の乗法群 (同じく正の実数全体から を抜くと乗群になります)への準同型写像 として,次のものを考えます.
ある一つの複素数に,絶対値は一つしかありませんし,絶対値は必ず実数です.また,二つの複素数 に対し, が成り立ちますから,絶対値を取ることで複素数を実数に対応させる写像は,準同型写像になります.
さて, の単位元は ですが, に移される複素数とは,絶対値が の複素数です.これは極座標表示で と表わされる複素数です.よって,この準同型写像の核 は と表わされる複素数の全体となります.
よって,準同型定理より次のことが言えます.
[*] | この結果の意味が,よく納得できるでしょうか?極座標表示で書くと分かりやすいのですが,複素数は絶対値と偏角という二つの数を表わす,いわば「二次元の数」です.一方,実数は一次元の数ですから,複素数の絶対値にしか対応できません.そこで,偏角に関わらず,絶対値が等しい複素数同士を,一つの集合にまとめてしまったのが なわけです. がひと目で当たり前と思えるまで,時間をかけて準同型定理の意味に慣れていきましょう. |
実数の加法群 から,複素数の乗法群 への準同型写像 として,次のものを考えます.
確かにこの写像が,実数の加法群を複素数の乗法群に対応させる準同型写像になっていることを確認してみてください. 全体は,絶対値が の複素数全体になります(例1に出てきた です).複素数の乗群の単位元は ですが,これは が整数の場合です.よって,この準同型写像の核は整数全体 で,次の関係がなりたちます.
[†] | ここで出てきた を一次元トーラス群と呼びます( が群になっていることを確認してみてください).トーラスとは,要するにドーナツ型のことです. |
正則な の行列全体からなる乗群 (これを n次一般線形群 と呼びます)から,実数の乗法群 への準同型写像として「行列式を取る」という操作を考えます.
確かに行列式は一つの行列に一つだけ決まりますし,正則な行列には必ず行列式があるので,これによって行列を実数に対応させることが出来るわけです.また, がなりたちますので(分からない人は線形代数を復習して下さい),確かに準同型写像になっています.実数の乗法群 の単位元は ですから,この準同型写像の核は,行列式が の行列になります.行列式が になる 行列の集合を と置くと(これを n次特殊線形群 と呼びます),準同型定理から次式が言えます.
[‡] | この例も,行列を一次変換の作用素だと考えると,特殊線形群は長さを変えない一次変換(回転だけ)を表わすものですから,例1と全く同じ話だと考えることができます.もう一度,例1と見比べてみて下さい. |
群 から群 への準同型写像を考えます.もし が単純群だとすると,正規部分群は単位元 か 自身の二つしかないわけですから,核として可能なのは か 自身だけです.すると,準同型写像は,単純群に対しては次のような二種類しかないことになります.
最初の例は, と が同型だという主張です.二番目の主張は, が単位元だけからなる群 だということです.単純群には,このような極端な準同型写像しか成り立たないのですね.(写像の「タイプ」には,この二種類のような準同型写像しか無いわけですが,「個々の写像の方法」は無数にある点にも注意して下さい.)