準同型写像に関して,重要な定理がたくさんあります.
群 が群 の上へ準同型写像で移されるときの核を とします.そして,この写像によって, の元 が に移されるとします.しかし,逆に に対応する の元が だけとは限りません(全射の図を思い出してください). に移される元だけを集めると,この集合は の による剰余類 に等しい,という性質があります.
theorem
群 の群 の上への準同型写像の核を とします.また,この写像によって, の元 は に移されるとします.このとき, に移される の元の集合は, です.
proof
二つの元 がともに に移されるとします. .このとき,準同型写像によって逆元は逆元に移されることを使って が言えます.よって定義より が分かりますから,両辺に を掛けて が言えます.■
[*] | この定理によって,『 おなじ剰余類に属する元は,準同型写像によって全て一つの元に移る 』ことが分かりました.一つの剰余類に属する元が,いかにも『仲間だ』ということを感じさせる定理です.群自身を調べて分かる事とはまた違った事が,群から群への写像を考えると判ってくることがあります.これは群論に限った話ではありません.代数では,集合自身を考えるよりも,集合から集合への写像を考えることで色々なことが見えて来ることがあるのです. |
上の定理の延長として,次の定理も得られます.これは準同型定理として知られる,特に有名なものです.
theorem
群 の群 の上への準同型写像の核を とします.このとき, と は同型になります.
proof
一つ前の定理により,準同型写像によって に属する元は全て に移るといえます. は のように,剰余類を元とする集合でしたが,この一つ一つの元に を対応させることができます.この対応は過不足なく一対一ですから同型写像で, と は同型になります.■
[†] | この定理は,『準同型写像の性質を調べるためには, を調べる代わりに, を調べても良い』という主張でもあります.どっちでもいい,と言っているのですから,本当にどっちを調べても全く同じなのですが,ここで面白いのは, は の部分群ですから, の中には に関係するものが何も出てこないという点です. が,何か他の群である にどう移されるかを調べる代わりに, 自身だけから構成された への写像を調べても良い,というちょっと不思議な結果になるわけです.ある準同型写像があって,それによって群がどのように移されるかは,写像を試してみるまでもなく,もう最初から群の内部的な構造で決まっていたのですね.もし私が群に生まれてきたなら,ちょっと夢のない話と感じるかも知れません. |
もう少し定理を紹介しておきます.定理に飽きてしまった人,先を急ぐ人は読み飛ばしてもらっても結構です.次の定理は,何がどうなっているのか,どうしても頭がこんがらがって来るので,紙に図を描きながら読むのをお薦めします.
theorem
群 の部分集合 は,群 の部分集合 が準同型写像によって移されたものだとします.このとき,もし が の正規部分群なら, も の正規部分群になります.
proof
群 の任意の元 と,その移された元 を考えます. を の元とするとき, が成り立ちますので, という写像が成り立ちます.いま仮定より は の正規部分集合ですので, を元として含むはずです. . は が移されたものですから,これより は が言えます. ですから, と を両側から乗じて が言えます.最後の関係だけ見ると ,すなわち は正規部分群であることが示されます.■
[‡] | ここでは一気に が正規部分群の場合を示しましたが,『 が の(単なる)部分群の場合には も の部分群になる』ことも同じように示せます.練習問題だと思ってやってみて下さい. |